建築設計事務所3社の経営戦略と今後の展望

概要

 日本の主要な建築設計事務所である、三菱地所㈱(子会社、㈱三菱地所設計)(東証PRM8802、2026年3月期純資産2,877,585百万円、総資産8,566,247百万円、売上高1,746,148百万円、営業利益329,730百万円)、東日本旅客鉄道㈱(子会社、㈱JR東日本建築設計)(東証PRM9020、2026年3月期純資産3,060,091百万円、総資産10,820,726百万円、売上高3,084,679百万円、営業利益414,258百万円)、東急㈱(子会社、㈱東急設計コンサルタント)(東証PRM9005、2026年3月期純資産957,767百万円、総資産2,920,289百万円、売上高1,086,179百万円、営業利益103,193百万円)、の3社は、それぞれ独自の経営戦略を展開している。3社の建築設計事務所事業等に関する戦略をまとめ、共通点と相違点を整理する。

三菱地所(三菱地所設計)の経営戦略

 三菱地所の子会社である三菱地所設計は、1890年に三菱社が設置した丸ノ内建築所をルーツとし、三菱地所の設計監理部門として長く活動した後、2001年に分社して現在の組織を発足、建築・土木の設計・監理をはじめ、リノベーション業務、都市・地域開発関連業務、各種コンサルティング業務等を幅広く行っている。都市計画や建築設計、企画・コンサルティング、リノベーション、CM、インテリアデザインなど活動領域は広く、日本国内にとどまらず中国、韓国、台湾、シンガポールやインドネシア、ベトナムなど東アジア全般に展開している。特徴としては、丸の内再開発など三菱地所が主導する大規模都市開発案件に一体的に関与できる立場にある点、オフィス、学校、マンション、ホテル、商業施設など多様な建物の設計・監理から、丸の内地区再開発のような大規模都市開発まで手掛けている点、R&D推進部を持ち、木造・木質化やカーボンニュートラルによる環境負荷低減、ビッグデータ活用によるABW対応オフィス、スマートシティ関連技術など、次世代の技術開発にも注力している点、が挙げられる。三菱地所は「長期経営計画2030」を策定し、社会価値向上戦略と株主価値向上戦略を両輪とする経営を掲げ、丸の内エリアの次世代化(丸の内NEXTステージ)を進めており、また、データセンターなど新規領域も成長ドライバーとなる見込み。三菱地所設計は、こうした大規模再開発・データセンター等の新領域開発の設計・監理を担う存在として位置づけられる。三菱地所設計は、三菱地所に加え、MEC Industry㈱、三菱地所ホーム㈱、三菱地所ウッドビルド㈱と共に5社連携ワーキングを進め、まちづくりの各場面での国産木材活用に取り組んでおり、脱炭素・木材活用など三菱地所グループのサステナビリティ戦略の実行部隊としての役割も強まっている。加えて、平和不動産㈱、鹿島建設㈱との3社共同で東京証券取引所ビルの制振改修を手掛けるなど、既存ストックの長寿命化・レジリエンス強化案件も増加傾向にあり、新築だけでなく改修・耐震分野への展開も進んでいる。

東日本旅客鉄道(JR東日本建築設計)の経営戦略

 東日本旅客鉄道の子会社であるJR東日本建築設計は、1989年に東日本旅客鉄道の建築部門から分離独立して発足、主に東日本旅客鉄道関連の駅舎、商業施設の設計、車両内装のデザイン等を行い、鉄道建築設計において国内トップの実績を持ち、日本建築学会賞を鉄道建築関連で二度受賞するなど評価が高い。主軸事業は、鉄道の駅舎・駅ビル設計で、大規模駅から無人駅まで様々な建築設計を展開し、駅周辺エリアの大規模開発やコンサルティングも東日本旅客鉄道と連携、駅とつながるオフィスビルや庁舎などの公共施設、商業施設、駅隣接ホテル、車両内装の監修、歴史的建造物の復元にも取り組む。特徴としては、鉄道という特殊構造物と一体化した建築(連続立体交差、駅ビル複合開発)の設計ノウハウを独占的に蓄積している点、が挙げられる。東日本旅客鉄道は、グループ経営ビジョン「変革2027」のもと、「くらしづくり・まちづくり」の推進を成長戦略の柱の一つに位置づけている。不動産・ホテル事業では、グループ資産活用による不動産回転ビジネスの加速とともに、駅を中心としたより広域なまちづくりを推進し、収益不動産販売事業における社有地開発・売却、外部デベロッパーとの共同事業や単独開発による住宅分譲事業の加速、広域品川圏など強みを活かしたエリア資産価値向上、物流施設等の新たなアセット開発を推進する方針。更に、グループ会社のJR東日本不動産㈱も、駅周辺部に限らない不動産の取得・開発を行うことで事業領域を拡大し、2027年度までに1,000億円規模の投資を計画しており、品川開発プロジェクトのような大規模複合開発も進行中。JR東日本建築設計は、こうした「駅を起点に非鉄道不動産へ広がる」グループ戦略の設計面での実行主体となることが見込まれ、駅舎新築・改修に加え、オフィス・商業・住宅・物流施設など案件の幅を今後更に拡大させる。

東急(東急設計コンサルタント)の経営戦略

 東急の子会社である東急設計コンサルタントは、1963年に東急不動産㈱に設立された設計監理部を前身とし、1973年に分離独立して発足、建築設計事務所だけでなく、建設コンサルタント、都市計画コンサルタントとしての機能も有している。主軸事業は、鉄道駅前拠点開発(東急沿線・他私鉄各社における鉄道施設と商業施設等を一体化した複合型駅前拠点開発)、住宅・宅地開発(沿線まちづくりにおける集合住宅・生活支援施設)、リゾート開発等。建築設計・土木設計・都市開発の各部門で構成される組織体系による総合力が強みで、東急や東急不動産を主要顧客としつつ、近年は大手デベロッパーや小売企業、東急以外の鉄道・交通事業者を顧客とする案件も多く手掛け、グループ外の売上比率が半分以上を占めている。東急は、2024年度からの中期3か年経営計画において「循環再投資による楽しく豊かで美しいまちづくり」を中心に、持続的な企業価値向上と事業間連携の深化によるコングロマリットプレミアムの創出を掲げ、沿線内外の各エリアの特性・成長可能性に応じたエリア軸の戦略と、交通インフラ・都市開発・生活創造といった事業軸の戦略を組み合わせる方針。また、東急不動産ホールディングス㈱は、2025年5月に「中期経営計画2030」を新たに発表し、長期ビジョン「GROUP VISION 2030」の後半期を「強靭化フェーズ」と位置づけ、強固で独自性のある事業ポートフォリオの構築を目指している。東急設計コンサルタントは、東急や東急不動産が推進する沿線再開発(連続立体交差事業、駅前複合開発)や住宅・商業開発の設計を担いつつ、グループ外案件の獲得(既に売上の過半)を一層強化していく。

3社の共通点
  • 「まちをつくる会社」へ:単に「建物を設計する会社」から「まちをつくる会社」へ大きく変貌している。三菱地所設計は、建築・設備・土木の設計監理だけでなく、都市開発・環境コンサルティング、リニューアル、CMまで事業領域を拡大、「まちづくり」を事業の中心に据えている。JR東日本建築設計は、「駅」を起点に、駅ビル、商業、オフィス・ホテル、駅周辺、まちづくり、と領域を拡大、現在は、設計だけをする組織設計事務所に留まらず、社会に広く「まちづくり」を提案できるクリエイティブな集団を目指している。東急設計コンサルタントは、都市計画・基盤整備、建築・土木設計、工事監理までを一体で提供する「まちづくり技術のワンパッケージサービス」を掲げている。
  • グループアセットの活用:「グループのアセット×設計能力」を最大限活用している。三菱地所設計は、三菱地所が有するオフィス、商業、ホテル、物流、住宅、海外など幅広いアセットと連携。JR東日本建築設計は、東日本旅客鉄道の公共交通指向型都市開発と連携。東急設計コンサルタントは、東急が有する鉄道、不動産、生活サービスと連携。
3社の相違点
  • 成長のドライバー:三菱地所設計は、都市再開発の高度化・脱炭素(木材活用等)。JR東日本建築設計は、駅を起点とした事業領域の水平拡大。東急設計コンサルタントは、沿線の深耕+グループ外受注の量的拡大。
  • 専門特化の方向性:三菱地所設計は、大規模都心複合開発・データセンター等の新領域技術(R&D推進部)。JR東日本建築設計は、鉄道構造物と建築の融合という唯一無二の技術ノウハウ(連続立体交差、駅舎)。東急設計コンサルタントは、建築+土木+都市開発の総合コンサルティング機能(建設コンサルタント色が強い)。
所感

 JR東日本建築設計は、鉄道建築という極めて代替困難な専門性に特化しており、これが強力な参入障壁となっている。東急設計コンサルタントは、建築・土木・都市開発を横断する「総合コンサルタント」的な性格を持ち、鉄道会社(東急)と不動産会社(東急不動産)という2つの株主の要請に応える必要がある分、事業ポートフォリオの分散度は高い。三菱地所設計は、その中間で、都心大規模複合開発という比較的普遍性の高い専門性を有している点が、海外展開のしやすさにもつながっている。建築設計事務所業界では、「設計」という単独サービスの価値が相対的に下がり、「設計を核とした総合的なまちづくり能力」の価値が急速に高まりつつある。M&A・アライアンス戦略を含め、各社の今後の動向が大いに注目される。

以上

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