「案件の入り口を押さえる」M&Aが加速
建築設計事務所業界のM&Aは、「売上を買うM&A」ではなく、「技術者・技術領域・バリューチェーンを買うM&A」が主流である。特に、下流の企業が最上流である建築設計事務所を買収することで、「案件の入り口を押さえる」戦略が見て取れる。以下、2020年以降に実行された象徴的なアライアンス事例5例を確認する。

①四電工が建築設計の㈱鈴木建築設計事務所の株式取得(子会社化)(2020年3月)
概要
㈱四電工(東証PRM1939、電気、空調工事)は、建築設計、構造設計、コンサルティング、工事監理等を手掛ける㈱鈴木建築設計事務所の株式を取得し子会社化。
狙い
鈴木建築設計事務所は、若く優秀な建築士を多数抱える山形県有数の設計事務所であり、意匠設計と構造設計の両方に強みを有している。四電工は、鈴木建築設計事務所を買収することで、バリューチェーンを強化、PFI案件やデザインビルド(設計施工一括発注)案件に対し、受注機会の拡大と受注確度の向上を目指す。
②NJSが上下水道の冨洋設計㈱の株式取得(子会社化)(2022年6月)
概要
㈱NJS(東証PRM2325、上下水道コンサルタント)は、上下⽔道及び農業⼟⽊コンサルティングを手掛ける冨洋設計㈱の株式を取得し子会社化。
狙い
冨洋設計は、上水道・下水道・工業用水道・農業土木・河川改修・その他利水施設に関する調査・計画・設計及び工事監理、土木工事・建築工事・機械電気工事に関する調査・計画・設計及び工事監理、浄水場・ポンプ場などの施設に関する調査・計画・設計及び工事監理を手掛ける。NJSは、冨洋設計を買収することとで、⽔道事業の強化、農業⼟⽊分野への進出、ソフトウェアやツールの普及拡⼤を目指す。
③あいホールディングスが建築設計の㈱アービカルネットの株式取得(子会社化)(2023年1月)
概要
あいホールディングス㈱(東証PRM3076、セキュリティ機器、カード他事務用機器、情報機器、設計、情報通信他)は、一級建築士事務所・建設コンサルタントの㈱アービカルネットの株式を取得し子会社化。
狙い
アービカルネットは、主に九州・中国地方を中心に、建築設計監理業務、都市再整備・地域活性化等の計画業務、ランドスケープ計画・設計業務、事業企画・プレゼン支援業務等を手掛けている。あいホールディングスは、アービカルネットを買収することで、あいホールディングス子会社で構造設計や耐震診断に強い㈱あい設計との連携を強化、九州・中国地方を中心にシナジー創出を目指す。
④ERIホールディングスがBIMの㈲花田設計事務所の株式取得(子会社化)(2025年1月)
概要
ERIホールディングス㈱(東証STD6083、建造物検査)は、プラント設備のBIMモデリング、3D測量を手掛ける㈲花田設計事務所の株式を取得し子会社化。
狙い
花田設計事務所は、プラント設備設計を専門に取り扱う会社として大規模プラント設備のBIMモデリングを強みとし、先端デバイスによる3D測量をBIMモデリングに活用することで設計プロセスの効率化に資する事業を推進している。ERIホールディングスは、花田設計事務所を買収することで、3D測量とBIM/CIMのモデリング技術を融合したデジタルツインによるコンサルティング事業を、ERIホールディングスが取り組む住宅・建築から土木インフラ、プラント、環境関連事業に至るまで、幅広い分野での展開を目指す。
⑤フクヤ建設が商業建築設計の㈱鳳建築設計事務所の株式取得(子会社化)(2025年9月)
概要
フクヤ建設㈱(東証TPM284A、新築注文住宅他)は、商業建築の設計施工並びに監理、住宅建設並びに管理・分譲に関する事業、都市計画・まちづくりコンサルティングを手掛ける㈱鳳建築設計事務所の株式を取得し子会社化。
狙い
鳳建築設計事務所は、愛媛県に本社を置き、商業建築の設計・監理サービスを提供している。フクヤ建設は、鳳建築設計事務所を買収することで、フクヤ建設が展開する建築工事事業との連携を強化、シナジーの創出を目指す。
所感
四電工の事例は、「設計部門を持つことで工事受注を取りやすくする」という発想。NJSの事例は、「水道・農業土木分野の強化」を目指すもの。あいホールディングスの事例は、「設計事務所の集積による規模の経済性」を追求するもの。ERIホールディングスの事例は、「BIM+3D測量を組み合わせたデジタルツイン技術の獲得」を目指すもの。フクヤ建設の事例は、「設計、施工の一体化」を狙ったものである。建築設計事務所業界は、今後も、同業や下流の企業を巻き込んでのM&Aが活発に行われるとみられる。建築設計事務所各社にとっては、「大手企業のグループに入って、自社の技術・顧客・ブランドを残しながら成長する」という筋道を描くことになる。特に、優秀な技術者が在籍している、特定分野で強い技術力を有している、地域・顧客基盤を有している、BIM・DX等の将来技術を有している企業は、アライアンスを通じた更なる成長の可能性が広がる。建築設計事務所業界各社の今後のM&A戦略から目が離せない。
以上
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