建設コンサルタント業界の戦略的M&A「インフラ維持・防災需要を見越した強者連合へ」

戦略的M&Aが命運を分ける

 日本の建設コンサルタント業界では、2020年以降、M&Aによる業界再編が活発化している。大規模事業者は、業界全体の人手不足等に対応し、経営基盤を強化する目的等から、M&Aを積極化。一方、中堅・小規模事業者は、後継者不足や技術者の高齢化等による事業承継ニーズが顕在化。更には、M&Aを通じた異業種からの新規参入の動きも顕著となっている。

 建設コンサルタント業界は、今後も成長が期待される市場とみられる。各社は、M&Aを活用することで、技術力強化、人材確保、商圏拡大、新分野進出、コスト削減といった多くのメリットを享受しつつ、業界内での競争優位・勝ち残りを目指す。今後は、M&Aの巧拙が各社の命運を分ける局面となる。タイミングを捉えた戦略的M&Aの実行が、企業の競争力を維持・向上させる上で極めて重要になると言えよう。

建設コンサルタント業界は堅調な拡大市場

 国土交通省が公表する「建設関連事業等の動態調査報告書」によると、建設コンサルタント50社の契約金額は、令和6年度の契約実績で約7,039億円に達した(図参照)。東日本大震災以降に公共事業が増加した2010年代後半から現在にかけて、建設コンサルタントの契約額は増加基調にあり、2020年前後の新型コロナ禍において海外プロジェクトは一時停滞したものの、国内の社会資本整備ニーズに支えられて業界全体の売上高は堅調に推移している。公共インフラ維持・防災分野の需要増加等により市場は拡大傾向にあり、インフラの老朽化対策や防災関連プロジェクトを中心に安定した需要が存在する。

 国土交通省の登録建設コンサルタント企業は約3,921社(2025年5月時点)にのぼる(約8割が中小企業)。分野別には、道路・橋梁などの交通インフラ分野や、河川・砂防・港湾など防災関連分野が主力であるが、近年は環境分野の業務も増加。例えば、再生可能エネルギー導入支援や生物多様性保全など環境コンサルティング業務を手掛ける企業も多く、脱炭素社会実現に向けた調査・計画業務の需要も拡大しつつある。

出所:国土交通省総合政策局「建設関連業等の動態調査報告(建設コンサルタント50社)」(国土交通省ホームページ)

今後10年間も堅調な市場拡大が見込まれる

 日本の建設コンサルタント市場は、防災・減災、老朽化対応、脱炭素などの社会的ニーズに応える形で、今後10年間(2025~2035年)も堅調な成長が期待されている。

  • インフラ老朽化への対応需要:高度経済成長期に集中的に整備された道路橋やトンネル等のインフラが次々と供用50年超となる時期を迎えており、2030年時点で道路橋の約54%、トンネルの約35%、河川管理施設の約42%が築50年超になると予測される。これら老朽インフラの更新・補修や長寿命化計画策定に関わる業務は今後大幅に増加するとみられる。
  • 自然災害の頻発と防災・減災ニーズ:近年、日本各地で豪雨・洪水、土砂災害、地震・津波等が相次ぎ、防災計画や減災対策の重要性が増加。政府も「国土強靱化基本計画」に基づき2018~2025年度の5か年加速化対策で約15兆円規模の関連事業を推進しており、2026年度からの次期5か年計画では総事業規模20兆円超の予算確保を目指している。これにより、河川改修、耐震補強、洪水調節施設、高潮対策など防災インフラ整備に関するコンサルティング業務が引き続き市場を牽引する。
  • 環境・脱炭素分野の政策推進:日本政府は2050年カーボンニュートラル目標を掲げており、地方自治体による地域脱炭素計画策定支援や再生可能エネルギー関連のコンサルティング需要が拡大している。例えば、太陽光・風力発電の導入計画における環境アセスメントやグリーンインフラ(自然共生型の防災設備)の検討業務など、新たなコンサルティング領域が広がりつつある。また、インフラ分野でも脱炭素化や気候変動適応(レジリエンス強化)の観点を取り入れた計画が求められており、関連する技術コンサルティングのニーズが高まるとみられる。
  • デジタルトランスフォーメーション(DX)推進:建設コンサルタント業界各社は、3次元点群データやAI解析を活用したインフラ点検・設計手法の開発を進めており、業務効率化と高度化により、限られた人材で多くの案件をこなせる体制を整えつつある。
買い手企業におけるM&A活用のメリット

 買い手企業がM&Aを活用する最大のメリットは、売り手企業が有する即戦力人材の確保、新たな技術領域や顧客基盤を獲得できる点にある。コンサルティング業界では「人」が最大の経営資源であり、優秀な技術者集団を抱えることができるかどうかが、最も重要な経営視点となる。社員の保有資格(技術士、RCCM等)や専門分野での経験年数、年齢構成などは、企業価値に直結する。

売り手企業におけるM&A活用のメリット
  • 人材と組織力の強化:売り手企業がM&Aを活用する最大のメリットは、買い手企業が有する人的資源を有効活用できる点にある。グループ内で技術者を融通しあい、適材適所に配置できるため、単独では対応困難だった大規模案件にも人員を確保して挑むことが可能となる。例えば、買い手企業から専門分野のエンジニアを一時的に派遣してもらい、自社のプロジェクトをバックアップしてもらうといった取り組みが可能。これにより、多くの中堅・小規模事業者が直面する「受注はあっても人手不足でこなしきれない」という悪循環からの脱却が期待できる。特に、大手企業の技術者や最新の知見を持つ専門部隊からの知識・ノウハウの共有を受けられる環境は、単独ではなかなか得難い。こうした人材シナジーにより、売り手企業は、技術力の底上げと将来の人材育成が図れる。無論、グループ内で技術者を相互活用することで、繁忙期に人手が足りないときは応援を受け、逆に余裕があるときは他拠点の案件を手伝うなど、柔軟なリソース配分も可能となる。
  • 受注安定化: 受注面でのメリットも期待できる。グループ内の営業ネットワークやブランド力を活用できるため、全国規模のプロジェクト参画や、買い手企業からの案件紹介など、受注の間口が飛躍的に広がる。例えば、従来は地元自治体から発注される小規模案件への対応が中心であった企業が、買い手企業経由で国の大型インフラ計画や他地域のプロジェクトに共同参画するといったケースも期待できる。買い手企業からの強力な営業支援を得られれば、受注が安定し、経営安定化につながる。グループ全体で仕事を融通し合う仕組みができれば、景気や季節や営業エリアに左右されにくい経営基盤が構築できる。
  • 機器・DX・研修投資:大手企業と連携することで、資本力・財務基盤の強化が図れ、これまで中堅・小規模事業者単独では難しかった設備投資やDX推進に踏み切りやすくなる。例えば、最新のBIMソフトウェアや高精度の測量機器、クラウド型のプロジェクト管理システム等、先進的なツール導入への投資を、買い手企業からの資金支援で実現できる可能性がある。ICT活用やデジタル化への対応は、大手企業等が重視する戦略分野であるため、単独では負担が大きかった投資を、グループの後押しで実現することが可能となる。
  • 事業承継の選択肢:経営者にとっては、自社を信頼できる買い手企業に託すことで、会社を存続させ、従業員や取引先を守る道が拓ける。特に、上場企業が買い手となるようなケースは、基本的に従業員の雇用継続が約束されるため、社員たちは職を失わずに済み、仕事環境も大きく変わらないケースがほとんど。M&A実行後に、給与や休日数、福利厚生が向上するなど、労働条件が改善されるケースも多い。経営者は「会社と社員を託す」ことによる安心感が得られ、従業員は「大きな会社の一員となり将来が安定する」ことによる安心感が得られる。

以上

株価算定・企業価値評価で全国対応の三澤公認会計士事務

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