フィットネスクラブ・スポーツジム業界の戦略的M&A「複数業態併存で顧客奪い合い」

市場回復の裏側で進む業態の二極化と再編

 フィットネスクラブ・スポーツジム業界は、コロナ禍によって大きな打撃を受けたものの、その後は市場規模、利用者数ともに回復が続いている。一方で、現在の業界を「コロナ前の状態に戻った」と捉えるのは適切ではない。24時間型ジムやコンビニ型ジム、女性専用ジム、パーソナルジム、ピラティスなど、新たな業態が拡大し、従来型の総合フィットネスクラブ・スポーツジムとの競争軸が変わりつつある。

コロナ禍を契機に構造転換

 経済産業省「特定サービス産業動態調査統計」によると、2024年のフィットネスクラブ業界の市場規模は前年比4.5%増の2,910億円、事業所数は同6.1%増の1,700事業所であった。

 フィットネスクラブ業界の2000~2024年の長期データを確認すると、「拡大期」、「成熟期」、「変革期」の3段階を経て現在に至っていることが見て取れる。即ち、2000年代は市場拡大期であり、店舗・会員・利用者数が拡大した。2010年代は成熟化・安定成長期に入り、市場規模は緩やかに拡大する一方で、店舗当たり生産性が重要になる。2020~2024年はコロナショックにより状況が一変、需要が急落した後、2021~2024年にかけて徐々に回復しつつある。但し、この期間は「コロナ禍で抑制されていたフィットネス需要そのものが戻った」というような単純なものではなく、むしろ、コロナ禍を契機としたトレンド転換を背景に、24時間ジム等への業態転換等が進んだ構造転換期と捉えることができる。

足元で起こりつつあるトレンドの変化とは

 足元のフィットネスクラブ・スポーツジム業界における最も大きな変化は、「顧客が求めるフィットネスクラブ・スポーツジムの形が変わりつつある」ということ。従来のフィットネスクラブ・スポーツジムは、プール、浴室、スタジオ、トレーニングジムなどを備えた総合型施設が中心であり、利用者は月会費を支払い、施設に通って一定時間を過ごすことが基本的な利用方法であった。しかし、近年は、このモデルとは異なる業態が急速に拡大している。その代表例が24時間型ジム。営業時間を限定せず、比較的小規模な施設で、トレーニングに必要な機能に絞ることで低価格を実現している。更に、コンビニ型ジムでは、トレーニングだけでなくセルフエステや脱毛など複数のサービスを組み合わせ、「ジムに行く」というより「生活の途中で気軽に利用する」ことを重視している。

 こうした業態が支持される背景には、消費者の価値観の変化があるとみられる。独立行政法人中小企業基盤整備機構の調査によると、フィットネスクラブを選ぶ際に圧倒的に重視されるのは「通いやすさ(立地・アクセス)」であり、次いで「価格の安さ」となっている。この結果は、フィットネスクラブ・スポーツジムサービスの競争軸が「設備の豪華さ」から「利便性・価格」へと移っていることを示していると言えよう。

 従来のフィットネスクラブ・スポーツジムは、プールや浴室、スタジオなどの充実した設備が競争力の源泉であった。しかし、このビジネスモデルは、大型施設と多くの従業員が必要となり、賃料、人件費、光熱費などの固定費負担も重い。一方、24時間型やコンビニ型のジムは、必要な機能に絞り、無人化・省人化を進めることで、低価格と高い店舗展開力が両立しやすい構造になっている。即ち、現在のフィットネスクラブ・スポーツジム業界は、低価格・大量集客型と高価格・高付加価値型という、一見すると正反対の2つの方向へ市場が分化しつつある状況にあると言える。消費者の一部は「高い総合型クラブ」から「安い24時間ジム」に移動する一方で、「多少高くても専門的なサービスを受けたい」という需要も増えている。パーソナルジム、ピラティス、ヨガ、コンディショニングなど、特定の目的に特化した高付加価値型のサービスが拡大している他、女性や高齢者など、これまでフィットネスクラブ・スポーツジムを積極的に利用してこなかった層を取り込む動きも進んでいる。

 スポーツ庁が実施した「スポーツの実施状況等に関する世論調査」によると、20歳以上の週1日以上の「運動・スポーツ実施率」は51.7%だが、週1日以上の「 運動・スポーツを実施したいと思う者の割合」は63.3%であり、運動・スポーツ実施率を11.6ポイント上回る。即ち、フィットネスクラブ・スポーツジム業界には「運動はしたいが、現在のサービスは利用していない」という潜在需要が存在することになる。この潜在需要を取り込むために、「近い」、「安い」、「短時間」、「女性でも利用しやすい」、「特定の目的に特化している」、といった新しいサービスが生まれていると考えられる。

今後起こるであろう業界の「5つの進化」

 今後のフィットネスクラブ・スポーツジム業界は、市場全体が大きく成長するというより、業態間のシェア移動が進む市場になると考えられる。日本は人口減少局面に入っているため、フィットネスクラブ・スポーツジム市場が長期間に渡って高い成長率を維持することは容易ではない。一方で、健康寿命の延伸、高齢化、健康意識の高まり、女性の運動不足などを背景に、運動・健康関連サービスへの需要は依然として存在している。そのため今後は、如何にして「新しい需要を取り込むか」が重要になる。

 第一に、24時間型・小型・低価格型の業態は引き続き店舗を増やしていく可能性がある。特に、人口密度の高い都市部では、「自宅から近い」、「予約不要」、「短時間でも利用できる」という利便性が強い競争力になる。

 第二に、低価格型とは反対方向の高付加価値化も進むとみられる。パーソナルトレーニング、ピラティス、コンディショニング、栄養指導など、「単に運動する場所」ではなく、「目的を達成するためのサービス」としてフィットネスクラブ・スポーツジムを提供する業態が存在感を増す。

 第三に、高齢者向けサービスの重要性が高まると考えられる。高齢化が進む中で、筋力維持、フレイル予防、介護予防など、フィットネスと医療・介護の境界領域には大きな需要がある。

 第四に、フィットネスクラブ・スポーツジム業界と異業種との融合が進む可能性がある。例えば、フィットネス×医療、フィットネス×介護、フィットネス×美容、フィットネス×食品、フィットネス×不動産、といった組み合わせ。フィットネスが単なる「余暇サービス」から、「健康維持のための生活インフラ」へと位置付けを変えていけば、従来のフィットネスクラブ・スポーツジムだけでなく、医療・介護・美容・食品・不動産などの異業種企業が参入する余地も広がる。

 第五に、フィットネスクラブ・スポーツジム業界の業界再編が進む可能性がある。フィットネスクラブ・スポーツジム業界では、店舗を一から出店するだけでなく、既存店舗を買収して商圏や会員基盤を一気に獲得することができる。特に、地域密着型のフィットネスクラブ・スポーツジムは、一定の会員基盤と店舗網を持っているため、チェーン企業にとって買収メリットがある。今後は、大手企業による地域企業の買収、異業種企業によるフィットネス・スポーツジムの買収、同業によるロールアップ等、複数の形でM&Aが進む可能性がある。

業界内部の変化に対応せよ

 フィットネスクラブ・スポーツジム業界は「一つの市場」ではなくなりつつある。今後は、低価格型、高付加価値型、女性特化型、高齢者特化型、スポーツスクール型など、それぞれ異なる顧客ニーズを狙う業態が並存し、その間で顧客の奪い合いが進むと考えられる。その意味においては、フィットネスクラブ・スポーツジム業界は「成熟市場」である一方、業界内部の「変化が非常に大きい市場」と言える。また、単純に「店舗数が多い会社」が勝つのではなく、「良い商圏に、適切な業態の店舗を持ち、高い店舗収益性を実現できる会社」が評価される可能性が高い。フィットネスクラブ・スポーツジム業界各社のM&A・アライアンス戦略を含む今後の取り組みが大いに注目される。

以上

あわせて読みたいフィットネスクラブ・スポーツジム業界関連コンテンツ

フィットネスクラブ・スポーツジム業界の最新トレンドを、更に深く、立体的に知りたい方は、こちらの関連コンテンツをご覧ください。

「自社の今の価値はどのくらいだろう?」
「将来的なM&Aを見据えて、現在の立ち位置を知っておきたい」

M&Aに精通した公認会計士・証券アナリストが、プロの視点で簡易株価算定(無料)を承ります。

  • 完全無料:算定費用は一切かかりません。
  • 実践的:フィットネスクラブ・スポーツジム業界の最新の株価倍率(売却・買収マルチプル)の動向や、貴社の財政状態及び経営成績等を加味した「実践的な解」を提供します。
  • 秘密保持:当事務所は、公認会計士法第27条(秘密を守る義務)により秘密保持義務を負っており、伺った情報・データが漏洩することはございません。秘密保持契約(NDA)締結前の段階でも、ご提供頂いた情報・データが漏洩することはございません。
  • 攻めの経営の第一歩に:今すぐのM&Aを検討していなくても問題ありません。自社の「通信簿(現在の価値)」を知ることで、今後の成長戦略やM&A・事業承継の選択肢も見えてきます。

3〜5年後の会社売却・M&Aに向けて「今」簡易株価算定・企業価値評価をすべき理由とは?

M&A・株価算定で全国対応の三澤公認会計士事務所

関連記事

Random

  1. メンタルヘルステクノロジーズが外国人介護人材採用の㈱ケアサクラとの資本業務提携を発表

  2. 芙蓉総合リースが物流機器販売・レンタルの㈱ワコーパレットの株式取得(子会社化)を発表

  3. 環境計測機器業界と戦略的M&A「先端技術との融合がカギ」

  4. 警備業界の戦略的M&Aから読み解く業界トレンド

  5. テー・オー・ダブリューが映像制作の㈱モットの株式取得(子会社化)を発表

  6. レオクランが医療機器販売のファスキアホールディングス㈱の株式取得(子会社化)を発表

  7. プライム・ストラテジーが中期経営計画(2024年11月期~2026年11月期)を取り下げ(2024年6月)

  8. うるるが事業計画及び成長可能性に関する事項(2023年5月)を発表

  9. クラシコムが㈱ステイト・オブ・マインドのファッションブランド「foufou」事業の取得を発表

  10. クリヤマホールディングスが自動車用ゴムの㈱ミトヨの株式取得(子会社化)を発表

Random

  1. セイコーエプソンがデジタル印刷ソフトウェアのFiery, LLCの株式取得(子会社化)を発表

  2. エルテスが中期経営計画「Build Up Eltes 2027」を発表

  3. 航空測量3社の戦略的M&Aから読み解く業界トレンド

  4. コンフィデンス・インターワークスが事業計画及び成長可能性に関する事項(2023年11月)を発表

  5. エーアイが音声合成技術のコエステ㈱の株式取得(子会社化)を発表

TOP