概要
日本の主要なフィットネス・スポーツジム企業である、RIZAPグループ㈱(札証A2928、2025年3月期純資産額51,534百万円、総資産額169,526百万円、売上収益171,090百万円、営業利益1,882百万円)、㈱ルネサンス(東証PRM2378、2025年3月期純資産12,118百万円、総資産額55,435百万円、売上高63,737百万円、営業利益1,946百万円)、セントラルスポーツ㈱(東証PRM4801、2025年3月期純資産額25,840百万円、総資産額41,153百万円、売上高46,595百万円、営業利益1,946百万円)、㈱カーブスホールディングス(東証PRM7085、2024年8月期純資産額19,409百万円、総資産額41,374百万円、売上高35,465百万円、営業利益5,458百万円)、㈱Fast Fitness Japan(東証PRM7092、2025年3月期純資産額13,906百万円、総資産額21,918百万円、売上高18,009百万円、営業利益3,339百万円)、フィットイージー㈱(東証STD212A、2024年10月期純資産額2,975百万円、総資産額5,866百万円、売上高6,673百万円、営業利益1,631百万円)、㈱LOIVE(東証GRT352A、2025年3月期純資産額1,636百万円、総資産額7,892百万円、売上高8,492百万円、営業利益1,004百万円)、の7社は、それぞれ独自の経営戦略を展開している。7社のフィットネス・スポーツジム事業に関する戦略をまとめ、共通点と相違点を整理する。
RIZAPグループの経営戦略
運動初心者向けコンビニジム「chocoZAP」およびパーソナルトレーニングジム「RIZAP」等のRIZAP関連事業を運営。他、体型補整用下着、美容関連用品・化粧品・健康食品等の販売、エンターテイメント商品等の小売、インテリア雑貨、アパレルおよびアパレル雑貨の企画・開発・製造および販売を展開。専門スタッフによる定期巡回型運営で省人化・省力化を図り、IoT遠隔システムを活用した冷暖房の自動制御、顧客による清掃・メンテナンスを組み込んだ「お客様共創モデル」をマニュアル化することで、均質な無人運営の強化を進める。これまでの直営店中心の体制に加え、今後はFC展開を進める。
ルネサンスの経営戦略
直営および受託型のフィットネスクラブ、スイミング・テニス・ゴルフスクール等のスポーツクラブ事業、地域・自治体・企業向け健康づくり事業、介護事業、ホームフィットネス事業、アウトドアフィットネス事業を展開。綜合型スポーツクラブとして、有人サービスによる顧客体験価値の向上と、DXによる運営効率化の両立を推進する。自治体向けの健康・教育ソリューションや公共施設の運営受託により新市場の獲得を目指す。医療周辺事業では、機能訓練や口腔機能への注力やシナプソロジー等の商品展開、ドミナント戦略(新規出店・M&A)に取り組む。
セントラルスポーツの経営戦略
直営店舗または業務受託店舗による会員制スポーツクラブの経営、直営店舗のプロショップにおける各種スポーツ用品等を販売。直営店舗では、マシンジム・スタジオ・プール・温浴施設等のフィットネス事業とスイミングスクール・体育スクール・ダンススクール等の各種スポーツスクール事業を、自社所有26店舗、テナント159店舗で展開。業務受託店舗では、民間企業や個人事業主等が経営する民間スポーツ施設14店舗、公共スポーツ施設51店舗へ、同社スタッフを常駐させ会員へのスポーツ指導を行う。所属アスリート(体操・競泳)のトレーニングを会員向けにアレンジして提供するほか、イベントツアーの開催、介護予防プログラムの受託、食品関連企業との運動と食を組み合わせた企画等により市場拡大を目指す。
カーブスホールディングスの経営戦略
国内外におけるカーブス事業のフランチャイズ本部として、フランチャイズ加盟事業者に対する経営指導、システムの導入およびノウハウ、機材、商品等を提供。女性向け30分健康フィットネスを展開。マーケティングを強化し会員増を図るとともに、プロテイン等の会員向け物販の拡大に取り組む。オンラインフィットネスや男性向け新業態の展開、欧州での出店強化などの事業拡大を図る。健康イベントの連携や、自治体認証の未病センター化など自治体との連携を通じてシニア層との接点増を図る。
Fast Fitness Japanの経営戦略
24時間営業・マシンジム特化型という特徴を持つ米国「エニタイムフィットネス」の日本におけるマスター・フランチャイジーとして、フィットネスクラブ運営事業を展開。若年層・男性市場をメインターゲットとし、広域な店舗網と有⼈店舗運営による独自ポジショニングを確立。都市部と地方部の地域性に合わせたマーケティング施策を推進し、同業他社のM&Aによる店舗数拡大も積極的に検討。既存FC・直営店中心のドミナント出店を進め、特に地方部の未出店エリアでは当該エリアに強みを持つ新規オーナーによる出店を目指す。
フィットイージーの経営戦略
フィットネスマシンに加えアミューズメント要素(スタジオ、高濃度酸素ルーム、ゴルフ、ラウンジ、サウナ、セルフエステ等)を取り入れたアミューズメントフィットネスクラブを直営店24店舗、FC 155店舗で展開。若年層から高齢者層、男女を問わず幅広い層をターゲットに、新サービス導入でフィットネス市場外の需要にもアプローチを目指す。また、異なるアミューズメントサービス、マシンメーカー、ラインナップでカニバリゼーションを避けつつドミナント出店を推進。100円ショップや書店との併設店出店や、総合病院内でのメディカルフィットネスの出店など異業種との協業にも取り組む。
LOIVEの経営戦略
女性向けの特定のコンセプトで体験価値を提供する小規模のスタジオ業態であるブティックスタジオを運営。1人のインストラクターが20~30名に「グループレッスン形式」で指導。直営160店舗を展開。店舗サイズは65~80坪。スタジオ以外はパウダールーム/更衣室のみのスリムな設計。急拡大するピラティス市場で、新規出店を強化しマーケットシェアの最大化と店舗会員のエンゲージメントに基づく物販強化により、売上高の向上を目指す。シニア向けフィットネスブランドのテスト運営に取り組むほか、海外への展開を目指す。
7社の共通点
- 出店戦略の高度化:ドミナント出店や未出店エリアの開拓、FCと直営の最適ミックスで固定費を抑えつつスピード拡大を志向。
- 周辺収益の強化:物販(プロテイン等)、オンライン・ホームフィットネス、イベント、受託運営など、会費以外の収益源を育成。
- DX・運営効率の追求:無人・省人運営、遠隔管理、予約・会員アプリなどで人件費削減と標準化を推進。
- セグメント特化の明確化:女性・シニア・初心者・若年男性など顧客セグメントの切り分けで価値提案を差別化。
- 自治体・医療介護との連携志向:公共施設の受託、未病・介護予防、メディカルフィットネス等、公的・医療周辺の需要を取り込み。
7社の相違点
- 無人・省人×スケール型:RIZAP(chocoZAP)は無人・共創モデルとIoTで超省人運営。Fast Fitness Japanは24hマシン特化で“必要十分な”有人運営とFCスケール。
- 総合型×有人価値訴求:ルネサンスおよびセントラルスポーツは総合クラブ+スクール+受託(公共・民間)で有人サービスの体験価値と地域密着を強化。
- FC本部×女性特化:カーブスは女性・30分サーキットに絞り、FC本部としてマーケと物販でLTVを伸ばすモデル。
- 複合アミューズメント型:フィットイージーはサウナ・ゴルフ・セルフエステ等を同居させて滞在価値を高め、異業種併設で送客を相互強化。
- ブティック×スリム設計:LOIVEは女性向けブティック(ピラティス等)を小箱・高回転で多店舗展開し、物販をエンゲージメントで伸ばす
所感
国内フィットネス・スポーツジム市場は、低価格・省人運営で可処分時間に食い込む利便性を武器にスピード拡大を図る陣営と、有人サービスや付帯価値で体験の質を磨き上げる陣営との二極化が一段と鮮明になっている。前者は標準化と遠隔管理を徹底することで低コスト化と面の拡大を優先し、後者は指導品質やコミュニティ形成、温浴・物販といった接点の厚みで離脱率を抑え、同じ「会費モデルビジネス」でも異なる勝ち筋を描いている。拡大の主軸をフランチャイズに置く企業では、オペレーション標準化とブランド品質の統制、商圏設計によるカニバリゼーション回避が企業価値の核心となる。短期の店舗数増は見かけの成長を演出し得るが、FCガバナンスが脆弱であれば、離脱率の上昇や単価下落を通じてLTVが毀損し、逆回転を招きやすい。M&Aもまた、単なる店舗の寄せ集めではなく、商圏(面)と人材の同時取得を見据えつつ、各社の戦略・ビジョンに整合した統合設計が鍵となる。M&A含むフィットネス・スポーツジム企業7社の今後の経営戦略が大いに注目される。
以上
