概要
㈱ispace(東証GRT9348)は、2024年6月28日、事業計画及び成長可能性に関する事項を発表した。
事業内容
- ペイロードサービス:月に輸送する物資である顧客の荷物(ペイロード)を同社グループのランダーやローバーに搭載し、月まで輸送するサービスを提供。顧客のペイロードに関する技術的なアドバイスと調整、更には月面到着後の実験や、これらに関連するデータ通信等に係るサービスの提供を含む。ペイロード重量に応じて1kg当たりの価格を顧客に課金する料金体系であり、ロケット打上げの1~2年前の本契約時からロケット打上げまでの間に、その全額が一括若しくは複数回に分割されて入金される。
- データサービス:売上計上の開始には至っていないが、将来的にデータサービスを主要サービスの1つとして提供する予定。同社自らが開発・購入するデータ計測機器やカメラ機器等を輸送し、主に月のデータを取得し、時には顧客の特定のニーズに合わせて取得するデータも都度アレンジしつつ、取得したデータを顧客に対して提供。また、取得・蓄積した情報に、地球上で入手可能な既存のデータも加え、加工、解析、統合することで、顧客にとって高付加価値な「大規模な月のデータベース」をクラウド上に構築し、顧客が自由にアクセスし、定額料金を課金の上、利用する、SaaS型・サブスクリプションモデルのビジネスの展開を目指す。
- パートナーシップサービス:同社グループの活動を、コンテンツとして利用する権利や広告媒体上でのロゴマークの露出、データ利用権等をパッケージとして販売し、技術開発や事業開発で協業を行うパートナーシップ・プログラムを提供。
強み
- 宇宙市場はいくつかのセグメントに分かれており、特に打上げや地球周回データ領域には既に多くの企業が乱立。これに対して、月関連領域は比較的まだ競合企業が少なく、小型ランダーのセグメントにおいて競合優位性を確保。
- 2022年に実施した初の月面着陸プロジェクト「ミッション1」において、技術的な成果と、持続可能なビジネスモデルであることを実証。技術的な成果として、ランダーのハードウェアが適切に動作したことや、軟着陸に至らなかった原因であるソフトウェアの問題に関する知見を得たことが挙げられる。持続可能なビジネスモデルについては、フライトデータを顧客に提供し、5社顧客から売り上げを計上したこと、及び今後のミッションに係る交渉を継続できていることなどがある。
中期経営計画
2025年3月期の数値予想は、売上高4,033百万円(2025年3月期実績2,357百万円)、営業利益▲13,165百万円(同▲5,501百万円)、とした。
リスク
- 同社の属する宇宙産業は将来の成長が期待される市場であるが、同社が事業収益を見込むペイロードサービスとデータサービスは、現在グローバルでも草創期に当たるため、今後、当該事業における市場が同社の想定通り成立・成長する保証がない。
- 月面開発事業は元来技術的リスクを伴うものであり、同社においてこれまで月面着陸の実績はなく、民間企業や日本の宇宙機関が月面着陸を行った事例もまだ稀少である。加えて、地球外の天体にランダーを着陸させることは元来難易度が高いオペレーションであるため、予期せぬトラブルが発生した場合、ミッションが未達となる可能性がある。
- 同社が行う月面開発事業においては高度な技術と正確性が求められ、今後の組立工程や試験の結果、及びその結果を踏まえた物品の再調達による納期の関係など様々な要因により、やむを得ず遅延が発生する可能性がある。
- 一般に政府機関からの発注については、国家予算による影響を受ける傾向があり、当該予算次第では、政府機関からの発注自体が少なくなるか、発注内容が変更若しくは取り消される可能性がある。また、政府機関からの発注への応募についても一定の当該国での内製化要件等が課される場合もあり、同社が必ずしも応募できるとは限らず、同社が期待する水準の単価とならない可能性がある。
- 既存の重要な外部パートナーの関係を失った場合、同等の技術的水準または価格水準を提供する代わりの第三者パートナーを確保できない可能性がある。
- 海外のサプライヤーとの間で複数の外貨建て取引を行っており、特に為替予約その他ヘッジ取引は行っていないため、連結財務諸表数値は為替相場の変動による影響を受ける可能性がある。
- MOU及びi-PSA等、顧客との最終契約の前に結ぶ中間契約は、顧客の潜在的な需要を表す契約形態であり、最終契約に至らず、実際の売上に変換できない可能性がある。
- 同社の米国子会社が着陸船および月面へのペイロード輸送の設計・開発・運用の下請け業者としてNASAによるCLPSタスクオーダーの提案に参加する等、さまざまな協業や提携にむけた協議を行っている。このようなプロジェクト、協業、提携に関する発表や報道は、世間や業界の大きな注目を集める可能性があり、同社株式の取引価格、同社事業、および将来プロジェクト等に悪影響を及ぼす可能性がある。
- 同社の主要事業であるペイロード販売に係る営業活動は相応に時間とコストを要するものであり、最終契約締結迄にかかるセールスサイクルは他事業と比較して長期化する可能性がある。
- 打ち上げや宇宙航行中にランダーやローバーが破損または全損する可能性がある。事故発生時、現在の保険では損失を完全に補償できない可能性がある。
- 同社は多額の先行研究開発投資と長期の開発期間を要する宇宙関連機器の開発に従事していることから、継続的な営業損失の発生及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上している状況にあり、現在のところすべての開発投資を補うための十分な収益は生じていない。これらの状況から、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在している。
- 同社グループの借入金のうち、複数の借入金について、財務制限条項が付されている。同社が将来において財務制限条項に抵触した場合、財務制限条項に係る期限の利益喪失につき権利行使しないことについて各行からシンジケート団から同様の合意を得られる保証はなく、各行がシンジケート団が同社の期限の利益を喪失させる権利を行使した場合には、同社の事業及び業績に影響を与える可能性がある。
- 同社の事業は、今後も多額の研究開発・設備投資資金が必要となる。また、データサービスの大規模データベースの実現のためには、様々な分野において、多額の研究開発や設備投資資金が必要となり、継続的な外部からの資金調達が必要となる可能性がある。しかし、同社が将来において想定する資金調達が出来ない場合や、必ずしも望ましい条件での資金調達ができない場合などは、同社がキャッシュ・フロー不足に陥る可能性や、同社の事業を支えかつこれを成長させるために必要な投資を行うことができない可能性がある。
所感
同社は、「地球と月がひとつのエコシステムとなる世界を築くことにより、月に新たな経済圏を創出する」ことをビジョンとして掲げる。ミッション2までを研究開発フェーズと位置付け、ミッション3からは輸送可能なペイロード容量を大幅に増加し、商業ミッションへの移行することを想定する。水素バリューチェーンを構成する様々な業界プレイヤーが足元でペイロードサービスの顧客としてシスルナ経済圏へ参入しつつあるほか、同社との協業が成立している。同社の今後のビジネスモデルの確立への取り組みとアライアンス戦略が注目される。
- 挑戦度☆☆☆
- 戦略度☆☆
- 期待度☆☆
以上