合従連衡進む全国1万社の警備業界
警備会社は、全国に約1万社存在し、その多くが地域密着型の中小事業者で構成されている。「安全・安心」への社会的要請は高まり続けており、コロナ禍でも売上高は減少せず、警備業は景気に左右されにくい安定的な成長産業といえる。その一方で、慢性的な人材不足と低賃金構造、採用難、更にはDX・設備投資への負担等の構造的課題を抱えており、特に、中小事業者にとっては、事業継続が難しくなりつつある。こうした状況下にあって、大手・中堅警備会社は、自社の立ち位置に応じてM&Aを成長戦略の中核に据え、「規模の経済性」、「範囲の経済性」、「社会インフラ化」を追求し続けている。今後の成長の鍵は、需要の追い風に甘んじることなく、変化への適応にある。転換期の波に乗り遅れてはならない。
警備ニーズは拡大傾向
令和5年における警備会社(警備業法第4条に基づく認定業者)の数は、1万674社であり、前年より150社(1.4%)増加した。スポーツイベント、コンサート、展示会等、不特定多数の人が集まる大規模イベントの開催が増加し、それに伴う雑踏警備や交通誘導警備の需要が拡大、また、企業や個人における防犯意識が向上し、施設警備、機械警備、ホームセキュリティなどの需要が増加したことなどが背景にあるとみられる。警備業は、比較的少額資本で参入できるという側面がある。無論、警備業法に基づく認定や研修制度の義務付けは必要ではあるが、大規模な設備投資を必要としない交通誘導警備等の業務も存在するため、新規参入が比較的容易であるとみられる。社会的ニーズの高まりを受け、警備会社の数は増加傾向にあるとみて良いだろう。

人材確保が経営上の最重要課題
警備業界では、需要の増加とは裏腹に、人材の確保が極めて困難な状況にある。採用は、新卒者よりも中途・異業種からの転職者に頼らなければならない現状にある他、特に、女性警備員の採用難が深刻化しており、女性専用施設や更衣室など、女性警備員のホスピタリティを生かした巡回業務等への対応が追い付かない状況もある。加えて、警備員の高齢化や、離職率の高さも人材定着を阻む要因となっており、警備業務の担い手の確保は「経営上の最重要課題」となっている。
警備業に見られる3つのM&A戦略
警備業界において成長戦略を描く上で、M&Aは一つの極めて有効かつ現実的な手段となる。自社の企業規模や成長ステージに応じて、以下の3つの類型を参考に、適切なアライアンス相手を選定し、警備業界における「勝ち組」を目指したい。
- 「規模の経済性」追求型:地域密着かつ労働集約型という性質が強い警備業界では、地域特化型の中小プレーヤーが多数を占める業界構造となっている。このため、他地域の警備業会社とアライアンスを組み、営業エリアの拡大や人材ネットワークの補完を図る戦略が王道となる。地域ごとに分散していた人員や現場対応の体制を、M&Aによって再編・統合し、複数拠点間の連携による広域対応や緊急時の応援体制の構築も可能となる。加えて、他地域の警備ニーズ(高齢化、災害リスク、観光地、繁華街対応など)に熟知した、地域に根差した特有のノウハウを有する警備会社とアライアンス組むことによって、自社のサービス提供能力の強化に繋がる可能性もある。
- 「範囲の経済性」追求型:警備業は、多角化への可能性を秘めた産業であり、警備×清掃、警備×ビル管理・メンテナンス(設備管理)、警備×医療・介護等、親和性の高い領域との統合によって、ビジネスモデルを強化・拡大できる可能性が高い。顧客との取引深度を高める「ワンストップ運用モデル」構築による収益性の強化が期待できる他、従業員に対しても、キャリアステップの可能性を示すことができ、人材採用力の強化に繋がる可能性もある。異業種とのアライアンス、或いは、多角化が進んだ同業とのアライアンスを図ることで、警備業界における勝ち組のポジションを盤石なものとしたい。
- 「社会インフラ化」型:「警備」は、今や単なる「人が見張る」業務ではなく、画像認識・AI・IoT・クラウド・ドローンなど最先端テクノロジーとの融合が進む、最先端テクノロジービジネスへと進化している。具体的には、セキュリティシステムで収集した膨大なデータの解析による省人化・警備体制の強化、画像認識・音声認識技術による警備機器の高度化・多機能化、5G・ビッグデータ・AIを活用した予兆検知・識別機能、5G・ドローン・ロボットを活用した遠隔リモート化、データセンターやネットワークの拡充などの新技術を取り入れたスマート警備体制の構築等、が日進月歩で進められている。警備業は、もはや「社会インフラサービス」へと進化しているのであり、スマートシティの構築をも視野に入れた戦略的な取り組みとなりつつある。無論、これらの取り組みは一社単独では成し得ない。他社とのM&A・アライアンスを通じて、自社を業界のリーディングカンパニー・大手企業のポジションにまで押し上げる必要がある。
変化対応型市場の勝者は誰か
警備業界は、規模の追求、多角化、テクノロジーとの融合等、可能性を秘めた「変化対応型市場」である。そして、警備業界においては、M&Aは、欠かすことのできない経営手段であると捉えて間違いないだろう。M&Aは、決して守りの経営手段ではなく、攻めの経営手段と捉えるべきである。人材採用力強化から、中長期の成長戦略まで、警備業界1万社のM&A戦略が大いに注目される。
以上
