トレンド変化・構造変化が進展
SNSマーケティング業界は、「画像・静止画」から「縦型ショート動画」へ主戦場がシフトし、「認知・PR(上流)」と「データ・獲得(下流)」の境界線が消滅しつつあることなどから、グループ全体のマーケティングサプライチェーン(認知→興味→獲得→顧客化)を完成させるべく、戦略的M&Aが活発化している。以下、2021年以降に実行された象徴的なアライアンス事例11例を確認する。

①ガイアックスがインスタグラファー撮影サービスの㈱GENIC LABの株式取得(子会社化)(2021年6月)
概要
㈱ガイアックス(名証NXT3775、SNSマーケティング支援他)は、インスタグラファー撮影サービスを手掛ける㈱GENIC LABの株式を取得し子会社化。
狙い
GENIC LABは、2017年より「インスタグラファー撮影サービス」を展開。インスタグラファー撮影サービスは、インスタグラムでフォロワーを多く抱える写真家(インスタグラファー)が、自身のセンスやスキルを活用して企業の商品を写真・動画で撮影するサービス。依頼可能なインスタグラファーは150人を超え、コスメ、ファッション、食、インテリアなど様々な領域を中心に、クライアント企業のブランドやサービスイメージに沿った世界観の構築を支援している。ガイアックスは、GENIC LABを買収することで、ガイアックスの「ロジカルなデータ分析と戦略設計」とGENIC LABの「感覚的に人々の心に刺さるクリエイティブ制作」を融合、SNS世代に刺さるソーシャルメディアを創造することで、SNSマーケティング事業の更なる成長を目指す。
②ホットリンクがBXプラットフォームの㈱wevnalのSNS広告事業譲受(2023年2月)
概要
㈱ホットリンク(東証GRT3680、SNSマーケティング支援他)は、BX(Brand Experience)プラットフォーム「BOTCHAN」の開発等を手掛ける㈱wevnalのSNS広告事業、一部メディア事業を譲受。
狙い
wevnalは、BXプラットフォーム「BOTCHAN」の開発と提供に加え、SNSマーケティング事業、クリエイティブ事業、メディア事業を手掛けている。ホットリンクは、wevnalのSNS広告事業、一部メディア事業を買収することで、wevnalのSNS広告(獲得系)やGoogle等の検索連動型広告に関する運用ノウハウ及び人材とホットリンクのビッグデータ収集・分析・活用を通じたSNS活用におけるノウハウ及び人材を融合、既存顧客への新サービス提供、新規顧客開拓等のシナジー効果を狙う。
③トレンダーズがインフルエンサーマーケティングのCARAFUL㈱の株式取得(子会社化)(2023年4月)
概要
トレンダーズ㈱(東証GRT6069、マーケティング支援他)は、インフルエンサーマーケティング事業、クリエイタープロダクション事業を手掛けるCARAFUL㈱の株式を取得し子会社化。
狙い
CARAFULは、TikTokを活用したSNSマーケティング支援において高い専門性を有しており、TikTokを中心としたインフルエンサーマーケティング事業と、TikTokクリエイターの活動サポートと育成を行うクリエイタープロダクション事業を展開。トレンダーズは、CARAFULを買収することで、SNSマーケティング支援におけるTikTok活用の専門性を強化、引き続き増加するTikTokマーケティング需要を捉えることによって、マーケティング事業の更なる成長を目指す。
④ジーニーがデジタルPRのソーシャルワイヤー㈱の株式取得(子会社化)(2024年7月)
概要
㈱ジーニー(東証GRT6562、広告プラットフォーム事業、マーケティングSaaS事業、デジタルPR事業)は、デジタルPR事業を手掛けるソーシャルワイヤー㈱(東証GRT3929)の株式を取得し子会社化。
狙い
ソーシャルワイヤーは、「全ての魅力にスポットライトがあたる社会へ」を経営理念とし、リリース配信サービス、インフルエンサーPRサービス、クリッピングサービスを展開。ジーニーは、ソーシャルワイヤーを買収することで、相互のサービスを優先的に紹介斡旋し既存顧客へのクロスセルを推進、両社の有するシステム資産を活用したシステム開発・商品開発等を目指す。
⑤ベクトルが化粧品企画販売の㈱gracemodeの株式取得(子会社化)(2025年4月)
概要
㈱ベクトル(東証PRM6058、PR代行・コンサルティング、ブランディング他)は、化粧品の企画・販売事業、ECサイト運営事業、PR・マーケティング代行事業を手掛ける㈱gracemodeの株式を取得し子会社化。
狙い
gracemodeは、美容コスメ領域のSNSマーケティングに特化したPR・デジタルマーケティング支援事業を展開しており、「個々の人生の幸せと豊かさに向き合い暮らしを、磨き続ける」というミッションを掲げ、生活者に向けたSNSでの認知拡大から購入まで一貫した施策をワンストップで支援している。ベクトルは、gracemodeを買収することで、gracemodeが保有するSNSマーケティングやSNSメディアに関するノウハウとベクトルのPR及び顧客基盤を融合、顧客の「いいモノを世の中に広める」ためのマーケティング領域を広げ、効果の最大化を目指す。
⑥マテリアルグループがソーシャルメディアマーケティングの㈱トレプロの株式取得(子会社化)(2025年9月)
概要
マテリアルグループ㈱(東証GRT156A、PRコンサルティング他)は、ソーシャルメディアマーケティング、DX支援、映像スクール事業等を手掛ける㈱トレプロの株式を取得し子会社化。
狙い
トレプロは、求人・集客に特化したTikTokアカウントを設計して運営する「TREND PRODUCE(トレンドプロデュース)」というサービスを提供しており、単発の広告ではなく、資産性のある自社メディアを活用したオンライン上での求人・集客の仕組みを構築する支援を行っている。マテリアルグループは、トレプロを買収することで、トレプロのTikTokに対する知見や中堅・中小企業を中心とした顧客基盤とマテリアルグループのPR発想に基づくマーケティングコミュニケーション支援の経験・知見を融合、マテリアルグループの更なる成長を目指す。
⑦ラバブルマーケティンググループがLINE公式アカウントAPIツール導入支援の㈱エルマーケの株式取得(子会社化)(2026年1月)
概要
㈱ラバブルマーケティンググループ(東証GRT9254、SNSマーケティング支援他)は、LINE公式アカウントAPIツール導入支援、LINE公式アカウント運用代行・コンサルティング、友だち数増加支援等を手掛ける㈱エルマーケの株式を取得し子会社化。
狙い
エルマーケは、LINEを中心としたマーケティング支援に強みを持っており、豊富な支援実績に基づいて、成果創出に必要なプロセスをワンストップでサポートしている。LINE公式アカウントAPIツール導入支援等のLINE関連ソリューションに加えて、友だち増加のためのランディングページ最適化(LPO)支援等、関連領域を含めた戦略的なマーケティング支援を得意としている。ラバブルマーケティンググループは、エルマーケを買収することで、LINEマーケティング領域でのソリューションを強化・拡充、相互送客によるアップセル・クロスセルでの顧客単価の向上、新規顧客の獲得等のシナジーを狙う。
⑧ネオマーケティングがTikTok運用代行の㈱エッセンスマーケティングの株式取得(子会社化)(2026年4月)
概要
㈱ネオマーケティング(東証STD4196、マーケティング支援他)は、TikTok運用代行事業を手掛ける㈱エッセンスマーケティングの株式を取得し子会社化。
狙い
エッセンスマーケティングは、企業公式アカウントのTikTok運用代行を主力事業とし、アカウント戦略の立案からコンテンツの企画・制作・配信管理、効果測定・改善提案まで一気通貫で提供している。フォロワー獲得にとどまらず、投稿ごとの視聴完了率やエンゲージメントデータをもとに高速PDCAを実践し、ブランド認知の向上から購買行動の促進まで成果に直結するアカウント運営を強みとしている。また、トレンドへの即応力においても豊富な実績を有しており、若年層への訴求において際立った競争優位を有している。ネオマーケティングは、エッセンスマーケティングを買収することで、ネオマーケティングが蓄積してきた生活者インサイトに基づくリサーチデータをエッセンスマーケティングのコンテンツ戦略に直接反映、感覚ではなくデータに裏付けられたSNS運用を顧客企業に提供することを目指す。また、デジタルマーケティング・PRとTikTok運用を組み合わせたクロスチャネルの戦略支援により、認知から購買・ファン化までの一貫したマーケティング支援の実現を目指す。
⑨ベクトルがタレントエージェントの㈱AILESの株式取得(子会社化)(2026年4月)
概要
㈱ベクトル(東証PRM6058、PR代行・コンサルティング、ブランディング他)は、タレント、ミュージシャン、インフルエンサー、監督、脚本家、俳優、文化人等のエージェント、マネージメント、キャスティング及びプロモート、ウェブサイトの企画、制作、運営及びコンサルティング、インターネット、携帯情報端末機等を使用した広告等を手掛ける㈱AILESの株式を取得し子会社化。
狙い
AILESは、インフルエンサー・クリエイター育成のオンラインスクール、有名インフルエンサーからの直接の指導を受けられる会員制コミュニティ及びSNS運用代行事業を展開しており、「∞の可能性をSNSで科学する」というミッションのもと、次世代を担うインフルエンサー・クリエイターの育成およびその輩出を通じて、企業のマーケティング活動を最適化するSNSマーケティング企業。ベクトルは、AILESを買収することで、AILESが保有する高度なインフルエンサー・クリエイター育成ノウハウ及びAILESが輩出した人材のリソースを垂直統合的に取得、急速に拡大するPR×ショート動画案件へ質の高い人材を機動的に配分・供給する体制を確立し、顧客の「いいモノを世の中に広める」ためのマーケティング領域を広げ、効果の最大化を目指す。
⑩ファンコミュニケーションズがインフルエンサーマーケティングの㈱レイリーの株式取得(子会社化)(2026年6月)
概要
㈱ファンコミュニケーションズ(東証PRM2461、アフィリエイト広告他)は、インフルエンサーマーケティング事業を手掛ける㈱レイリーの株式を取得し子会社化。
狙い
レイリーは、「影響力を、社会的価値へ変換する」をミッションに掲げ、2,580 名のインフルエンサーネットワーク(総フォロワー数約8,285万名)、米国・韓国のトップアーティストとのキャスティングネットワーク、及び、Vtuber26名が活動するライブコマースレーベル「RAY VERSE STUDIO」を擁するインフルエンサーマーケティング企業。ファンコミュニケーションズは、レイリーを買収することで、ファンコミュニケーションズのアフィリエイト広告サービス「A8.net」が持つ多数の広告主ネットワークとレイリーが保有する国内外のインフルエンサー・セレブリティネットワークを有機的に結合、広告主に対して従来のアフィリエイト広告に加えてインフルエンサーマーケティングをワンストップで提供できる体制の構築を目指す。
⑪ソーシャルワイヤーが広告運用支援の㈱SEIRYOの株式取得(子会社化)(2026年6月)
概要
ソーシャルワイヤー㈱(東証GRT3929、SNSマーケティング支援他)は、広告運用支援事業、成果報酬型SNS広告事業を手掛ける㈱SEIRYOの株式を取得し子会社化。
狙い
SEIRYOは、TikTokを中心としたショート動画領域における広告運用支援事業を展開しており、成果報酬型広告運用を強みとするマーケティング支援会社。SEIRYOはByteDanceの公認パートナー契約を有しており、プラットフォーム側との強固な連携関係を背景とした少人数組織による効率的な事業運営により、高い売上総利益創出力および収益性を有している。ソーシャルワイヤーは、SEIRYOを買収することで、SEIRYOが持つ高い運用効率とソーシャルワイヤーが有するシステム開発体制および業務効率化ノウハウを連携、TikTok・ショート動画領域を中心とした広告運用および成果報酬型SNS広告事業の強化等を目指す。
所感
SNSマーケティング業界のM&Aは、単に「SNSが流行っているから枠を広げる」というフェーズは終わり、実利(獲得・内製化・垂直統合)を求めた戦略的M&Aへ完全にシフトしている。具体的には、以下の4つのトレンド変化・構造変化がみられる。
「画像・静止画」から「縦型ショート動画」へ主戦場がシフト。買い手が求めるM&Aターゲットは、Instagramを中心とした「世界観」、「映える静止画・写真」のクリエイターの囲い込みから、TikTokを中心とした「縦型ショート動画」の運用代行や、公認パートナーの買収へと軸足が動いている。足元のSNSマーケティング業界においては、「縦型ショート動画のPDCAを高速で回せる組織」が、M&A市場において評価される状況と言える。
「認知・PR(上流)」と「データ・獲得(下流)」の垂直統合。「バズらせる・認知を取る」という感覚的なPRと、「数値を分析して成果を出す」というロジカルなマーケティングの境界線が消滅しつつある。ベクトルやマテリアルグループといったPRの巨頭が、美容特化(gracemode)、TikTok特化(トレプロ)、インフルエンサー育成(AILES)、といった領域を次々と買収。また、ガイアックスやホットリンク、ネオマーケティングのような「リサーチやビッグデータ分析」に強みを持つ企業が、現場の泥臭い運用代行やクリエイティブ力を持つ企業を買収し、「データ×感覚の融合」、「データに裏付けられたクリエイティブ」をワンストップで提供しようと動いている。
アフィリエイト(成果報酬)とインフルエンサーの融合。広告主の「費用対効果(ROI)」への要求がシビアになる中、ネット広告の伝統的な仕組みとSNSの融合が進んでいる。アフィリエイト広告大手のファンコミュニケーションズが2,500名以上のインフルエンサー網を持つレイリーを買収し、ソーシャルワイヤーが成果報酬型SNS広告のSEIRYOを買収したのが象徴的。これまでは、「認知のためのインフルエンサー」、「獲得のためのアフィリエイト」と棲み分けられていたものが、「売上に直結するインフルエンサーマーケティング」へと進化し、広告主へのワンストップ提案を可能にしている。
親・子・孫におよぶ「エコシステム(生態系)」の形成。買収したプラットフォームやツールを基盤に、更にその下に専門領域のピースを継ぎ足していくスタイルのM&Aが目立つ。ジーニー・ソーシャルワイヤー・SEIRYOのラインは、広告プラットフォームのジーニーがデジタルPRのソーシャルワイヤーを子会社化し、そのソーシャルワイヤーが更にTikTok広告運用のSEIRYOを子会社化した事例。ラバブルマーケティンググループ・エルマーケのラインは、総合SNS支援のラバブルマーケティンググループがエルマーケを買収することで、XやInstagramで集めたユーザーをLINEで顧客化するという導線を強化したもの。M&Aによってグループ全体のマーケティングサプライチェーン(認知→興味→獲得→顧客化)を完成させる動きが加速している。
SNSマーケティング業界におけるM&Aの買い手は、自社で一からショート動画のクリエイターを育て、TikTokのアルゴリズムに最適化した組織を作る手間(時間)をショートカットし、戦略的M&Aに動く傾向が強い。そのため、特定のSNSプラットフォームと強固なパイプを持ち、利益率の高いソリューションを有する少数精鋭のSNSベンチャー等は、今後も需要される可能性が高い。SNSマーケティング業界の今後のM&A動向から目が離せない。
以上
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