帝人|決断の事業ポートフォリオ羅針盤(2025年)

概要

 帝人㈱(東証PRM3401、2025年3月期資本合計438,541百万円、資産合計1,061,272百万円、売上高1,005,471百万円、事業利益27,594百万円)のセグメント情報を基に、同社の事業ポートフォリオの最適化について検討する。

帝人のセグメント別事業内容
  • マテリアル事業:高機能材料(アラミド繊維、炭素繊維、ポリカーボネート樹脂)、複合成形材料の製造・販売。
  • 繊維・製品事業:繊維製品等の製造・販売、ポリエステル繊維及び織物の製造・販売等
  • ヘルスケア事業:医療機器(在宅酸素療法機器、CPAP装置等)、医薬品(希少疾患領域)の製造販売、在宅医療サービス。
  • IT事業:情報システムの運用・開発・メンテナンス。
  • その他:電池部材及びメンブレンの製造・販売、再生医療等製品及び埋込医療機器等の開発・製造・販売、プラントエンジニアリング、環境分析等。
帝人のセグメント別業績
  • 同社の基幹事業であるマテリアル事業は、自動車向け複合材料で減損損失を計上したものの、アラミド繊維や樹脂部門で自動車・産業向け販売数量の増加が寄与し、収益性改善策も奏功した結果、事業利益ベースでは増益となっている。2025年3月期営業赤字拡大の主因は、北米複合成形材料子会社の減損処理および事業売却による特別損失計上。
  • 繊維・製品事業は、需要が堅調で売上・利益が伸長。
  • ヘルスケア事業は、国内薬価改定による売上減や在宅医療機器の新規導入増加に伴うコスト増が重荷となり、利益は減少。例えば、睡眠時無呼吸症候群向け在宅医療機器装置は処方件数が前期比7%増と拡大を続ける一方、新規機器投入や消耗品増によりコスト負担が増加。
注目セグメント①マテリアル事業
  • アラミド繊維「トワロン」や炭素繊維「テナックス」など世界トップクラス製品を有する高性能繊維分野や、ポリカーボネート樹脂「パンライト」等の樹脂・フィルム事業を強みに持つ。これらはEV・航空宇宙向け軽量素材や5Gインフラ用途など成長分野で需要拡大が期待される。
  • 2017年に同社が買収した米国の自動車部品会社(Teijin Automotive Technologies)は、COVID-19後の人手不足や人件費高騰、インフレ、ストライキなど外部環境悪化などにより想定を大きく下回る利益水準に陥っていた。同社グループ全体で北米事業の収益改善に取り組み、一時は黒字化が見えるまで立て直したが、将来の柱とするには成長性・安定性に欠けると判断。2025年3月、同事業を米プライベートエクイティのAurelius社に譲渡し、北米における自動車向け複合成形材料事業から完全撤退。
  • 今後のM&A戦略としては、カーボンニュートラルや次世代モビリティ向けの材料技術に強みを持つ企業への投資が考えられる。例えば、水素エネルギー用高圧タンク向け材料技術、炭素繊維リサイクル技術等は、同社の炭素繊維事業との親和性が高く、国内外ベンチャーへの出資や買収が検討される可能性がある。また、自社で手掛ける複合材料の応用拡大のため、成形加工や素材加工の優良企業をM&Aで取り込む展開も期待される。
注目セグメント②ヘルスケア事業
  • スペインにおいてEsteve社との合弁で在宅酸素療法サービス会社(ETH社)を運営してきたが、在宅医療サービス以外の領域への注力方針へと変換したことや、収益性の課題もあり、2024年末に保有株50%を日本酸素HD傘下のOximesa社へ売却。
  • 国内訪問看護事業は立ち上げから数年と新しく、未だ道半ばと推測される。同社は、訪問看護事業を含む在宅医療サービス全体で2025年度までに売上100億円規模を目指す計画であるものの、現状その目標達成は不透明。当初の設立背景は、自社の在宅医療機器利用患者へのケア提供であり、呼吸器領域に強い訪問看護を自前で持つことで、自社機器のフォロー体制強化やユーザー情報の収集といったメリット獲得を目指すものであった。しかし、その範囲を超え、一般的な訪問看護を展開するとなると、同社他部門との協業余地も乏しく、積極投資の必要性に疑問符が残る。同社は、海外の訪問看護事業を手放した経緯があることからも、同事業の今後が注目される。
  • 同事業における経営戦略としては、在宅医療サービス(酸素濃縮器・CPAP等)の質・効率向上、製薬分野ではオーファンドラッグやライフサイエンス領域への集中が望まれる。実際、2025年3月には医療機器メーカー㈱ジェイ・エム・エスとの合弁で在宅医療機器サポート会社を設立し、腹膜透析分野でのサービス強化を開始したほか、同月、シスメックス㈱との共同研究契約を始めとする再生医療領域での協業に乗り出している。
  • 在宅医療サービスやデジタルヘルスとのシナジーを追求するため、医療IT・機器分野のスタートアップ買収や提携の継続も有効。既に買収済みのCAREBOOK事業(入退院支援クラウド)に加え、TytoCare(遠隔診療デバイス)の販売提携や、㈱CureAppとの高血圧治療補助アプリに関する共同マーケティング実施等の動きがあり、今後もデジタルヘルス関連のM&Aおよびアライアンスに期待が寄せられる。
注目セグメント③その他(環境分析事業、プラントエンジニアリング事業)
  • 同社において、環境分析事業およびプラントエンジニアリング事業は、環境CSRの象徴的意味合いはあるものの、経営戦略上の重点成長分野には位置づけられていない。実際、同社の成長投資領域はモビリティ・インフラ・ヘルスケアに絞られており、環境分析事業およびプラントエンジニアリング事業を主力事業として拡大する計画は示されていない。環境戦略「THINK ECO」の推進は掲げつつも、主に自社製品・製造プロセスの環境対応であって、環境分析事業自体を拡大する意図は薄いとみられる。
  • 環境分析事業およびプラントエンジニアリング事業は、他事業との直接的な補完関係は乏しいものとみられる。同社グループ内の工場排水・排ガス測定や土壌調査、各種エンジニアリングといったニーズに応える素材メーカー内製部門としての役割は担っているものの、これらは自前で抱えずとも外部委託が可能。他事業との顧客や技術の共通点も少なく、シナジー効果は限定的。むしろ、グループ内の環境分析、プラントエンジニアリング需要に縛られ、新規顧客開拓の機会が限られている可能性もあり、抜本的見直しが必要と考えられる。
所感

 同社は、2024年5月に「帝人グループ 中期経営計画2024–2025」を公表。その中で「基礎収益力の回復」および「事業ポートフォリオ変革」を重点課題に掲げ、この2年間を収益性改善と構造改革に取り組む期間と位置付けている。同計画の初年度にあたる2024年度は、不採算事業の整理など収益性改善策を概ね計画通り達成し、戦略的オプションの実行(事業売却・撤退)による事業の絞り込みにめどを付けたとしている。

 上記注目セグメント以外では、かねてよりグループITセグメントを担っていた子会社インフォコム㈱について、さらなるグループシナジー模索と並行して全ての選択肢を検討した結果、同社保有株式の売却を決断。2024年6月、インフォコム株式を投資ファンドBlackstoneに譲渡する契約を締結し、売却を実行。この売却によりITセグメントを事業ポートフォリオから外し、同社はマテリアル・繊維・ヘルスケアの3事業体制へ移行した。

 ROE等向上のためのポートフォリオ改革は道半ばであり、今後も継続的な事業の見極めが求められている。経営資源を将来の成長ドライバーに重点配分するため、依然として採算性の低い事業やノンコアと位置付けられる事業については、思い切った決断を躊躇すべきではない。同社の今後の取り組みが大いに注目される。

以上

株価算定・企業価値評価で全国対応の三澤公認会計士事務

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