概要
日本の主要なプラントエンジニアリング(総合エンジニアリング)企業である、日揮ホールディングス㈱(東証PRM1963、2025年3月期純資産392,260百万円、総資産784,175百万円、売上高858,082百万円、営業利益▲11,474百万円)、千代田化工建設㈱(東証STD6366、2025年3月期純資産25,456百万円、総資産461,034百万円、売上高456,969百万円、営業利益24,421百万円)、東洋エンジニアリング㈱(東証PRM6330、2025年3月期純資産60,243百万円、総資産286,598百万円、売上高278,091百万円、営業利益2,591百万円)、の3社は、それぞれ独自の経営戦略を展開している。3社のプラントエンジニアリング事業等に関する戦略をまとめ、共通点と相違点を整理する。
日揮ホールディングスの経営戦略
総合エンジニアリング事業及び機能材製造事業を主たる事業とし、加えて、機器調達及びコンサルティング等の附帯事業を展開。総合エンジニアリング事業の事業領域は、石油、石油精製、石油化学、ガス、LNG、一般化学、原子力、金属製錬、バイオ、食品、医薬品、 医療、物流、IT、環境保全、公害防止分野等多岐にわたり、装置、設備及び施設の計画、設計、調達、建設及び試運転役務等の EPC(Engineering(設計)、Procurement(調達)、Construction(建設))ビジネス等を展開。現行の中期経営計画では、「EPC事業のさらなる深化」を掲げ、リスク管理・プロジェクト折衝力の強化を通じたプロジェクト粗利益率の向上、JV組成戦略・デジタル技術・建設工法の最適化による受注競争力の向上を図り、大型EPCプロジェクトの競争力・収益力の強化を目指す。併せて、「EPC事業の成長市場・分野への拡大」を推進、LNG受入基地、ガス火力発電、太陽光発電、バイオマス発電、医薬品、病院、ケミ カル分野強化、成長著しいアジア地域におけるリージョナル経営体制強化、国内市場への対応も見据えた人員増強を図る。更に、将来の成長エンジンを確立すべく、カーボンマネジメント支援、洋上風力、スマートO&M、水素・燃料アンモニア、小型モジュール原子炉等のエネルギートランジション領域等を強化。
千代田化工建設の経営戦略
総合エンジニアリング事業、その他事業を展開。総合エンジニアリング事業は、各種産業用・民生用設備並びに公害防止・環境改善及び災害防止用設備に関する総合的計画、装置・機器の設計・調達・設置、土木・建築・電気・計装・配管等工事及び試運転等、その他付帯事業を展開。特に、広範多岐に亘る技術の高度の総合化が要請される近代的産業用設備、とりわけ化学工業設備の建設を、その設計から機器の調達、現場建設、試運転、メンテナンスに至るまで、一貫して遂行。事業領域としては、LNG、石油・石油化学での豊富な実績、技術と知見を活かし、脱炭素・先端素材分野を拡充。更に、医薬品プラントでのEPC実績と知見を活かし、バイオ・ライフサイエンスソリューションプロバイダーとしての成長を目指す。2019年3月期に経営危機に陥って以降、三菱商事㈱及び㈱三菱UFJ銀行からの支援を受け事業基盤を強化、リスクマネジメントの高度化やEPC遂行力強化などを推進。特に、案件対応の事前検討および受注時の入り口管理と共に、パートナーリスク管理の一層の強化を図る。
東洋エンジニアリングの経営戦略
総合エンジニアリング事業を展開。一般化学、石油化学、石油精製、天然ガス、電力、原子力、水、交通、高度生産システム、物流、 医薬、資源開発、バイオ、環境その他各種産業におけるプラントの研究・開発協力、企画、設計、機器調達、建設、 試運転、技術指導等を展開。現行の中期経営計画では、「EPC強靭化」と「新技術・事業開拓」の両輪で、地球と社会のサステナビリティの実現を目指している。EPCは、グループオペレーションをDX等により深化すると共に、拠点中心のEPCオペレーションへと変革することで、強靭化を推進。また、新技術・事業開拓は、循環型・ 低環境負荷、CO2利活用・省エネ、次世代エネルギー、資源・エネルギー安全保障、Quality of Life、の5つを重点事業領域に据え、強化拡大。EPCに拘らない新たなビジネスモデルの展開を目指し、燃料アンモニアの事業化調査やカーボンリサイクルのビジネスモデルの検討を進める。
3社の共通点
- エネルギートランジション:水素、アンモニア、CCSなどの脱炭素ソリューションに注力。
- 海外市場志向:中東、東南アジア、新興国などグローバル市場を重視。
- 非エネルギー分野への展開:医薬・ヘルスケア、ライフサイエンス等、周辺産業への拡張を目指す。
- 財務健全化とリスク管理:大型プロジェクトにおける損失リスクの抑制が重要課題。
3社の相違点
- 主軸事業:日揮ホールディングスは、エネルギー、非エネルギーを含む広範囲な事業展開。千代田化工建設は、LNG等を中心としたエネルギー、東洋エンジニアリングは、石油化学等を中心に事業展開。
- 提携等:日揮ホールディングスは2025年3月に㈱高田工業所(東証STD1966)と資本業務提携、千代田化工建設の筆頭株主は三菱商事㈱(東証PRM8058)、東洋エンジニアリングの筆頭株主は三井物産㈱(東証PRM8031)。
所感
日揮ホールディングス、千代田化工建設、東洋エンジニアリング、のプラントエンジニアリング(総合エンジニアリング)企業3社は、それぞれに強みと課題を持ちつつ、脱炭素社会への移行と新興国市場の開拓という共通のテーマに取り組んでいる。特に、エネルギーから環境・医療・デジタルへのシフトという方向性は、世界的な潮流と合致しており、これまでの重厚長大型のエンジニアリングから、より柔軟かつ機動的なモデルへの転換が進む。一方で、千代田化工建設のように財務体質の強化が急務な企業もあり、戦略実行には一定の制約が存在。また、日揮ホールディングスのように多角化と技術革新を進める企業と、東洋エンジニアリングのように選択と集中によって競争優位の確保を目指す企業では、戦略に違いがある。今後は、脱炭素ビジネスの収益性、海外大型受注の成否、財務基盤の強化と経営の持続可能性等が焦点となる。各社がどのような差別化を図り、新たな価値を提供していくか、M&Aやアライアンス戦略を含め、各社の動向から目が離せない。
以上
