環境計測機器業界の戦略的M&Aから読み解くセクタートレンド 

Ⅰ.環境計測機器メーカー 

①日東精工が分析計測機器製造の㈱三菱ケミカルアナリテックの株式取得(子会社化)(2020年4月) 
概要 

日東精工㈱(東証PRM5957)は、分析関連機器の開発・製造・販売・メンテナンスを手掛ける㈱三菱ケミカルアナリテックの全株式を取得し完全子会社化。 

狙い 

三菱ケミカルアナリテックは、三菱ケミカルグループ㈱(東証PRM4188)の子会社として、分析計測機器を製造・販売し、特に元素計や水分計で高い評価を得ており、海外への販売ネットワークを有する。三菱ケミカルアナリテックの販売先が日東精工の流量計販売先と多くが共通することから、顧客の共有化や製品開発並びに製造の協働を目指す。 

②リオンが環境計測機器製造のNorsonic ASの株式取得(子会社化)(2022年7月) 
概要

リオン㈱(東証PRM6823)は、ノルウェーで音響・振動の測定及び環境モニタリングに関連する機器・システムの開発、製造、販売を手掛けるNorsonic ASの株式を取得し子会社化。 

狙い 

Norsonicは騒音計などの音響計測器の開発・製造において欧州地域におけるトップクラスのシェアを保持しており、リオンは、計測機器ビジネスが盛んなドイツ市場を中心に、グローバルシェア拡大を指す。また、建設工事現場や工場、道路などの騒音や振動を遠隔で監視し、クラウド上にデータを保管提供する環境モニタリングシステムサービスを新たに獲得するとともに、両社の技術と販売網を一体とすることで、高付加価値製品の開発や市場シェアの拡大を目指す。 

③堀場アドバンスドテクノが水質計測機器開発のTethys Instruments SASの株式取得(子会社化)(2023年4月) 
概要

㈱堀場製作所(東証PRM6856)の子会社で水質計測事業を担う㈱堀場アドバンスドテクノは、フランスで環境・プロセス市場向けに水質計測機器を開発、生産、販売するTethys Instruments SASの全株式を取得し完全子会社化。 

狙い 

堀場アドバンスドテクノは、Tethys Instrumentsの強みであるUV分光技術と、堀場アドバンスドテクノが持つ電気化学やサンプリング技術、堀場製作所グループが持つ非分散型赤外線吸収法、燃焼技術のコア技術融合で、水質計測システムの研究開発とソリューション提案力の強化を図る。 Tethys Instrumentsが加わることで、環境先進国である欧州での技術開発が可能となり、Tethys Instrumentsの持つ専門性の高い販売ネットワークを活用し、新興国や発展途上国におけるビジネス展開を目指す。 

④エスペックが日立ジョンソンコントロールズ空調㈱の環境試験装置事業を譲受(2023年9月) 
概要

エスペック㈱(東証PRM6859)は、冷暖房空調機器・冷凍冷蔵機器の製造販売等を手掛ける日立ジョンソンコントロールズ空調㈱から環境試験装置の製造販売事業を譲り受ける。 

狙い 

エスペックは、IoT・自動車関連の先端技術分野における環境試験需要が高まるなか、日立ジョンソンコントロールズ空調の環境試験装置事業の譲受により、日立ジョンソンコントロールズ空調の開発技術・ノウハウとエスペックの既存技術の融合によるシナジー創出を目指す。 

⑤堀場製作所がラマン分光装置を開発のProcess Instruments, Incの株式取得(子会社化)(2023年10月) 
概要

㈱堀場製作所(東証PRM6856)は、米国でプロセス向けラマン分光分析装置の製造、販売を手掛けるProcess Instruments, Inc.の株式を取得し子会社化。 

狙い 

堀場製作所は、米国市場における環境、プロセス市場向けに、分析・計測機器を展開しており、プロセスラマン分光装置を開発、生産、販売するProcess Instrumentsを買収し、さらなる事業力強化を目指す。 

⑥トーヨーカネツが環境計測機器開発の坂田電機㈱の株式取得(子会社化)(2025年3月) 
概要

トーヨーカネツ㈱(東証PRM6369)は、土木、建築、公害関係の各種計測機器、試験機の開発、試作、設計、製造、販売、および上記製品の設置工事、建設コンサルタント業務を手掛ける坂田電機㈱の全株式を取得し完全子会社化。 

狙い 

トーヨーカネツは、環境事業の成長を推し進め、環境調査・分析技術を中心に、環境保全・監視による健康被害防止、環境汚染問題への対策、生活環境・自然環境の環境影響評価を提供している。坂田電機を買収することで技術面・営業面での連携を図りながら事業機会を広げ、特に近年頻発する激甚災害への対策やインフラ設備の老朽化といった顕在化する社会課題に対して貢献度の高い価値提供を目指す。 

Ⅱ.環境計測機器卸 

⑦藤井産業が計測機器販売の㈱コアミ計測機の株式取得(子会社化)(2021年9月) 
概要

藤井産業㈱(東証STD9906)は、計量器、測量機、分析機器等の販売及び修理等を手掛ける㈱コアミ計測機の全株式を取得し完全子会社化。 

狙い 

藤井産業は、測量、設計段階からICT建機までのシームレスな技術提案サポートを提供するコアミ計測機の経営基盤の強化・合理化、グループ内情報活用等により、藤井産業の建設業におけるDX事業の更なる強化を目指す。 

⑧鳥羽洋行が計測機器製造販売の㈱和泉テックの株式取得(子会社化)(2024年1月) 
概要

㈱鳥羽洋行(東証STD7472)は、大学研究機関向けを主とする理化学機械器具の受託販売、研究の受託及び測定機器の開発、製造を手掛ける㈱和泉テックの全株式を取得し完全子会社化。 

狙い 

鳥羽洋行と和泉テックは得意とする販売先の業界及び業種が異なることから相互補完関係にあり、それぞれが有する優れた販売商材を両社の顧客に対して提案し、ソリューションを提供していくことで事業拡大を目指す。 

⑨オリックスが計測機器レンタルの㈱レックスの株式取得(子会社化)(2022年11月) 
概要

オリックス㈱(東証PRM8591)は、計測器・測定器のレンタルおよび販売、校正受託などのサービスを手掛ける㈱レックスの全株式を取得し完全子会社化。 

狙い 

オリックスは、全国の営業拠点を基盤に対面型営業に強みを持ち、ICT関連機器や産業用機器など幅広いラインアップを提供するオリックス・レンテックと、ウェブを通じた営業に強みを持ち、計測器・測定器のレンタルに特化するレックスの両社で連携を図り、互いの強みを生かした新たな営業手法や顧客開拓などを目指す。計測器・測定器のレンタル市場は、EC市場の拡大による物流施設の新築工事や、建物や道路、橋梁などの高経年化に伴う耐震・修繕工事や点検、多分野での研究開発から品質管理にまで幅広く利用されており、今後の成長が安定的に見込まれ、オリックスの法人営業ネットワークや事業ノウハウの活用、ガバナンス強化などのサポートを行い、レックスの継続的な成長を目指す。 

Ⅲ.環境計測機器サービス 

⑩関東エア・ウォーターが室内環境測定の㈱環境技術センターの株式取得(子会社化)(2018年12月) 
概要 

エア・ウォーター㈱(東証PRM4088)の子会社で産業・医療ガス、医療機器・医療関連サービス、LPガスの販売等を行う関東エア・ウォーター㈱は、関東地区を中心に環境測定や騒音測定などの各種分析業務(環境コンサルタント、環境計量証明、環境調査・分析、環境アセスメント)を行う㈱環境技術センターの全株式を取得し完全子会社化。 

狙い 

環境技術センターは、シックハウス症候群対策を主眼においた有害化学物質の室内環境測定を主たる事業として成長し、顧客から信頼を得ている。また、室内遮音性能測定などの環境測定分野も得意としており、今後の環境分析市場での成長が期待される。関東エア・ウォーターは、環境技術センターをグループ化したことで、主要顧客である建設関連や病院関連などの環境分析を必要とする顧客へ新たなサービスを提案することに注力し、エア・ウォーターグループが北海道地区で展開する環境分析事業との人的・技術的交流により、グループ全体としての環境分析事業の強化を目指す。 

⑪トーヨーカネツが環境調査の環境計測㈱の株式取得(子会社化)(2021年4月) 
概要 

トーヨーカネツ㈱(東証PRM6369)は、環境機器・計測機器の保守管理、点検、修理、データ解析、環境調査(生活環境/自然環境)、環境アセスメント、環境モニタリングシステム販売、環境測定器及び試薬の販売を手掛ける環境計測㈱の全株式を取得し子会社化。 

狙い 

トーヨーカネツは、流通業界や空港業界を中心に搬送やピッキング等の省力化、自動化ソリューションを提供する物流ソシューション事業と、各種貯槽タンクを手掛ける機械プラント事業を主力事業として展開し、アスベストや騒音などの環境分析の領域でも事業展開。トーヨーカネツは、グループに環境計測を迎え入れることで、主力2事業に次ぐ新規事業創出に向けて環境領域での更なる事業強化拡大を目指す。 

⑫ベステラが環境汚染対策工事の㈱矢澤の株式取得(子会社化)(2021年11月) 
概要

ベステラ㈱(東証PRM1433)は、アスベスト及びダイオキシン対策工事、分析を手掛ける㈱矢澤の全株式を取得し子会社化。 

狙い 

矢澤は、アスベスト対策やダイオキシン対策等の有害物質、環境汚染対策工事にたいして特殊な工事技術を提供しており、大手ゼネコン会社等に対して豊富な工事実績がある。ベステラは、プラント解体工事事業を展開しており、プラント解体工事におけるアスベスト対策、ダイオキシン対策などの環境に対する特殊工事の需要増加への対応を目指す。 

⑬ERIホールディングスが水環境調査分析の㈱福田水文センターの株式取得(子会社化)(2024年6月) 
概要

ERIホールディングス㈱(東証STD6083)は、建設コンサルタント(河川環境)、環境調査測量、環境分析試験業を手掛ける㈱福田水文センターの全株式を取得し完全子会社化。 

狙い 

ERIホールディングスは、土木インフラ関連や環境関連分野に至る、より広いフィールドにおいて事業領域拡大に取り組んでいる。福田水文センターは、北海道・東北を中心に水文・水資源の総合コンサルタントとして、水環境の調査・分析やインフラの計画設計等を展開。本件は、北海道で5社目の建設コンサルタント会社のM&Aであり、地域における土木インフラ・環境関連事業の力強い推進を目指す。 

⑭伯東が受託分析事業の㈱クリアライズの株式取得(子会社化)(2024年9月) 
概要

伯東㈱(東証PRM7433)は、製造・エネルギー・ヘルスケア業界向け受託分析事業の㈱クリアライズの全株式を取得し完全子会社化。 

狙い 

伯東は、エレクトロニクス専門商社及びケミカルメーカーとして事業を展開。主要4事業(機器、デバイス、コンポーネント、化学)に属さない「新規事業の創出」や「部門共同事業の収益化」に注力しており、本件により伯東の取引先企業に対して受託分析事業のクロスセル提案をおこなうことで、より川上への事業参入を目指す。また、伯東の海外ネットワークを活用することでクリアライズの海外での営業強化にも寄与し、伯東の水処理装置の販売機会拡張を図る。 

環境計測機器メーカーに対するM&Aの特徴 

1.技術の補完・融合 

機器メーカーは、UV分光技術、ラマン分光技術、音響測定技術など、買収先が持つ独自技術を取り込むことによる技術力の強化を主目的として、自社製品の競争力強化を図る。 

2.グローバル市場の開拓 

機器メーカーは、海外市場の現地企業を買収することで、販売網を獲得し、現地の規制や顧客ニーズに応じた製品を提供することでグローバル市場でのシェア拡大やプレゼンス強化を図る。 

3.高付加価値製品の開発 

買収先企業の技術を活用し、従来の製品に新たな価値を付加することで、顧客満足度を高め、高価格帯製品の販売拡大を図る。 

環境計測機器卸に対するM&Aの特徴 

1.商材の拡充 

機器卸企業は、機器メーカーを買収することで、取り扱い製品ラインナップを拡充し、顧客への幅広い選択肢を提案することで、営業力を強化する。 

2.営業力の強化 

機器卸企業は、同業を買収することで、営業基盤を強化し、取引先企業の共有化や情報の活用により、営業効率向上を図る。 

環境計測機器サービスに対するM&Aの特徴 

1.ソリューション提供力の強化 

機器サービス企業は、同業を買収することで、環境コンサルティングや分析サービスの領域で、環境ソリューションの専門性の高度化を図る。 

2.環境課題への対応 

騒音計測、水質計測、室内環境測定などの分野でのモニタリングシステムやコンサルティングサービスを買収することで、環境規制の強化、SDGsの推進、気候変動対策の加速により増加する、環境モニタリングや環境分析に関する需要への対応を強化する。 

所感 

環境計測機器業界は、規制強化や環境保全意識の高まりを背景に、計測・分析ニーズが増加し、高度な専門技術が競争優位性を生む市場となっている。そのため、環境計測機器関連各社は、環境計測機器における自社に不足する技術を補完し、競争力を高める積極的なM&A戦略を取っている。今後は、環境規制の強化や社会課題の顕在化に応じたM&Aが更に増加すると予想される。特に、AIやIoTを活用したリアルタイムモニタリングやクラウド型の環境データ管理や、機器の販売に留まらない保守・メンテナンスやコンサルティングサービスの提供が成長ドライバーとして重要視され、新しい価値提供として期待されている。異業種からの参入も見られ、関連業界各社の今後のM&A・アライアンス戦略が注目される。 

以上

株価算定・企業価値評価で全国対応の三澤公認会計士事務所

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