単独・自前主義の限界と「M&A」という選択肢
SNSマーケティング業界は、市場成熟と事業環境変化の波を受け、SNSマーケティング支援事業者の二極化が必至の状況にある。かつて「おまけの広告チャネル」として扱われていたSNSは、今や顧客との最初の接点であり、購買行動を決定づけ、LTV(顧客生涯価値)を左右する事業戦略の中核へと昇華。SNSマーケティング支援事業者各社は、単独・自前主義の限界を見据え、自社の企業価値が最も高い「今」のタイミングで、大手企業への合流等戦略的なM&A・アライアンスを決断したい。

市場規模2兆円超えも利用者数頭打ち
国内SNSマーケティング市場は、デジタル広告市場を牽引する存在として、今後も堅調な需要拡大が見込まれている。㈱サイバー・バズと㈱デジタルインファクトによる共同調査(2024年)によると、国内SNSマーケティング市場の市場規模は、2024年の1兆2,038億円(ソーシャルメディア広告1兆727億円、インフルエンサーマーケティング860億円、他)から、2029年には2024年対比約177%増の2兆1,313億円へと拡大することが予測されている。

出所:㈱サイバー・バズ/㈱デジタルインファクト調査
その一方で、SNS利用者数(サイトやアプリケーションを月1回以上利用する人)は、2023年の1億580万人から2028年の1億1,360万人へと、成長鈍化が見込まれている。あらゆる年代に普及が進んだ結果、利用者数という点においては頭打ちに近づきつつあり、今後は、「いかに多くの人にリーチするか」という数の論理から、より緻密なターゲティングに基づく「エンゲージメントの質」や「LTVへの直接的な貢献」が一層問われることになるものとみられる。

出所:総務省令和6年版 情報通信白書
事業環境変化が直撃
市場規模の拡大が見込まれる一方で、SNSマーケティング支援事業者が直面する事業環境は、テクノロジーの進化、プラットフォームの変容、法規制等、劇的な変化の最中にある。
生成AIの台頭が、業界構造を根底から揺るがしている。キャッチコピーの作成、画像生成、簡易な動画編集やレポート作成など、従来は若手スタッフが時間をかけて行っていた「作業」の多くがAIによって代替可能となりつつある。「クライアントの代わりに投稿文を考え、画像を加工する」といった旧態依然とした運用代行モデルは急速に陳腐化しており、AIを導入したクライアントが内製化を進めることで、需要が消滅するリスクが高まっている。中堅・中小のSNSマーケティング支援事業者が、テクノロジーの進化という変化に投資面・人材面で追いつくことは極めて困難になりつつある。
「縦型ショート動画」の爆発的普及も見逃せない。TikTok、YouTube ショート、Instagram リールなどに代表される縦型ショート動画は、ユーザーのアテンションを短時間で強烈に惹きつけるフォーマットとして定着した。テキストや静止画を中心としたこれまでのクリエイティブ制作体制では、月に数十本の動画を高速でテストしPDCAを回すという新たなゲームのルールに対応しきれず、制作リソースの枯渇に苦しむ中堅・中小のSNSマーケティング支援事業者が急増している。
法規制の強化も大きな環境変化である。2023年10月の景品表示法改正以降、インフルエンサー施策における透明性の担保は絶対条件となった。生活者は「PR」という表示に対して以前にも増して敏感になり、単にお金を払って商品を褒めちぎるだけの不自然なプロモーションは、エンゲージメントの低下を招くだけでなく、ブランド毀損という致命的なリスクを孕むようになった。現在では、ブランドの思想と真に共鳴するクリエイターを厳選し、彼らの本音(オーセンティシティ)を引き出すクリーンかつ本質的なマーケティング手法が標準である。フォロワー数という表面的な数字だけを指標にして案件をばらまくブローカー的な仲介業は淘汰され、クリエイターとの間に深く強固な関係資本を築くSNSマーケティング支援事業者のみが生き残っていくものとみられる。
勝ち筋は「ROIコミット」と「フルファネル統合提案力」
今後、SNSマーケティング支援事業者は、「単なる作業代行会社」と「ビジネス成長を牽引する戦略パートナー」に二極化する可能性が極めて高い。そして、後者の地位を確保するためには、「ROIコミット」と「フルファネル統合提案力」が必須となる。
ROI(投資対効果)コミットは、クライアントが真に求める「事業利益への貢献」を意味する。即ち、各種SNSマーケティング支援施策が、最終的にどれだけの売上高やリード獲得、LTV向上に繋がったのかを、データで証明するコンサルティング能力が問われている。無論、「フォロワー数の増加」や「いいね数」といった、これまで主流であったKPI(重要業績評価指標)からの脱却が必要となる。
フルファネル統合提案力は、複数のプラットフォームを横断するなど、消費者の購買プロセス全体を包括的に捉え最適化するマーケティング戦略構築力を意味する。消費者は複数のSNSやメディアを複雑に回遊して購買に至る。特定のSNS(例えばInstagramのみ)の運用に特化したサービスは、初期的には有効だが、スケールには限界がある。認知獲得から興味喚起、比較検討、購買、そして熱狂的なファン化に至るまでのフルファネルを一気通貫で設計・実行できる組織力こそが、トップティアSNSマーケティング支援事業者へのパスポートとなる。
3つの戦略的M&A
AIの進化等の環境変化を乗り越え、「ROIコミット」、「フルファネル統合提案力」といった今後の成長に不可欠なケイパビリティを、中堅・中小のSNSマーケティング支援事業者が全て単独・自前で構築することは現実的ではない。業界内で勝ち残る、或いは、創業者利益を確保しつつ事業をスケールさせるためには、資本力と顧客基盤を併せ持つ他社への合流、即ち、戦略的M&Aの実行が必須となろう。
総合代理店・PR会社への合流:単一プラットフォームや特定施策への依存リスクを減らし、フルファネル統合提案力を実現させるためのM&A。例えば、Instagram運用やTikTok動画制作に特化したSNSマーケティング支援事業者が、大手総合広告代理店や大手PR会社にグループインすることで、一気にナショナルクライアント等大型案件へのアクセスを獲得するケースが考えられる。大手総合広告代理店や大手PR会社も機動力のあるSNSマーケティング支援事業者を渇望しており、極めて高いシナジーが期待できる。
EC支援・コンサルティング企業への合流:SNSマーケティングの川上(戦略策定)から川下(購買・リピート)までのバリューチェーンを強固にするためのM&A。ECサイト構築・運用支援企業や、CRM・MAツールのベンダー、あるいは総合コンサルティングファームにグループインすることで、自社のSNS運用力を上流工程やシステムと連携させる。SNSの枠を超えたROIコミットというクライアントの究極のニーズに応えつつ、自社の収益基盤を安定させることが可能となる。
IT・SaaS・テクノロジー企業への合流:属人的な「勘と経験」に依存した労働集約型ビジネスモデルからの脱却を図るM&A。独自のデータ基盤を持つIT企業や、生成AI技術を持つSaaSスタートアップにグループインすることで、自社の泥臭い運用ノウハウをシステム化し、業務効率を劇的に改善(原価低減)させる。併せて、テクノロジー投資を加速させ、データに基づいた「ヒットの再現性」を持つ次世代型マーケティング組織へと脱皮を図る戦略である。
各社のM&A戦略から目が離せない
SNSマーケティング業界は、2兆円市場という広大なフロンティアを前にしながらも、単独・自前主義の限界に直面している。いち早く単独・自前主義を捨て、戦略的M&Aに動いた企業のみが、自社のケイパビリティを活かし、圧倒的なスケールメリットを享受し、次なる成長ステージへと飛躍できる。SNSマーケティング支援事業者各社のM&A戦略から目が離せない。
以上
