活発なアライアンスが進むブロックチェーン・Web3業界
ブロックチェーン・Web3業界では、業務提携、資本提携、M&A等の各種アライアンスが活発に行われている。特に、ゲーム、通信、不動産、金融、各種情報管理等の分野において、大手、ベンチャー・スタートアップ企業を含む様々な業種の企業がブロックチェーン・Web3ビジネスに本格参入、異業種間連携が進むことでサービスの向上や新サービスの開発等が加速している。以下、2023年以降に実行された意欲的なアライアンス事例12例を確認する。
①ラックがアプリケーション開発の㈱Opening Lineへ出資(2023年3月)
概要
㈱ラック(東証STD3857、システムインテグレーション、サイバーセキュリティ)は、ブロックチェーン技術を活用したサービス開発を行う㈱Opening Lineへ出資。
狙い
Opening Lineは、ブロックチェーン技術を使用したアプリケーション開発に取り組んでおり、Opening Lineが開発する次世代型ファイルセキュリティシステム「JUGGLE(ジャグル)」は、アップロードするファイルに対し、安全性の高いパスワードを自動で生成し、ブロックチェーン技術により暗号化し、秘匿性の高いファイル共有の環境を実現することが可能。ラックは、Opening Lineに出資することで、ラックが掲げる「smart town事業構想」と、自治体や重要インフラ(情報通信、金融、航空、空港、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス、医療、水道、物流、化学、クレジット、石油の14分野を重要インフラと政府が規定)の基幹システムにあるデータを連携させる際にJUGGLEを利用、セキュリティの強化を狙う。
②サンフロンティア不動産がブロックチェーンシステム開発のモノバンドル㈱と業務提携(2023年4月)
概要
サンフロンティア不動産㈱(東証PRM8934、不動産再生、不動産サービス他)は、ブロックチェーン領域のシステム開発・コンサルティング業務、新規暗号資産上場審査業務を手掛けるモノバンドル㈱と業務提携。
狙い
モノバンドルは、ブロックチェーン領域のマルチプロダクトカンパニー。サンフロンティア不動産は、モノバンドルと業務提携することで、不動産領域×NFT(非代替性トークン)を起点とした、Web3業界のスタートアップコミュニティへの体験の提供やゲートウェイとして様々なコミュニティ同士の協業および協創を目指す。また、ブロックチェーン技術を活用した不動産関連サービスの開発により、不動産取引プロセスの効率化や透明性の向上を図る。
③ドリコムがブロックチェーン研究開発のチューリンガム㈱と共同事業(2023年5月)
概要
㈱ドリコム(東証GRT3793、ゲーム、出版・映像、物販・イベント、テクノロジーソリューション)は、㈱ネクスグループ(東証STD6634)の子会社で、コンサルティング、ソフトウェア開発、ブロックチェーン研究開発を手掛けるチューリンガム㈱と共同事業。
狙い
ドリコムは、チューリンガムと連携することで、ドリコムのIPゲーム企画・開発・運営経験と、チューリンガムのブロックチェーンに対する高い技術力と豊かな知見というそれぞれの強みを最大限に活かし、ブロックチェーンゲームの制作・運営を行う。ドリコムおよびチューリンガムは、ドリコムが保有するコンピュータゲームの原点とも言われる「Wizardry」IPを用い、IPを軸とした強力なコミュニティを丁寧に醸成していくとともに、ブロックチェーン、NFTといったWeb3領域のテクノロジーを最大限活用し、世界中の多くのユーザーが楽しめるブロックチェーンゲームの提供を目指す。ブロックチェーン技術により、プレイヤー同士がマーケットプレースを通したゲームアイテムの取引が可能になるなど、より深く革新的なゲーム体験を提供することができるようになり、これらマーケットプレースやゲームトークンを含むサスティナブルなゲーム経済圏の構築と維持を目指す。
④三井物産がブロックチェーンゲームの香港Animoca Brands Corporation limitedと資本業務提携(2023年6月)
概要
三井物産㈱(東証PRM8031、総合商社)は、ブロックチェーンゲーム事業を中心としたWeb3事業、Web3アドバイザリー事業、Web3ファンドを手掛ける香港Animoca Brands Corporation limitedと資本業務提携。
狙い
Animoca Brands Corporationは、香港に事業拠点を置き、デジタル資産とブロックチェーン技術を活用したweb3の実ビジネスと並行し、Web3のプロトコルやインフラなどの基盤技術からブロックチェーンゲームなどWeb3を活用したサービス提供企業、メタバース領域まで幅広く450社以上に投資を実行し独自のエコシステムを構築する世界有数のWeb3リーディングカンパニー。三井物産は、Animoca Brands Corporationと資本業務提携することで、自社の消費者ビジネスから産業ビジネスまでの幅広い事業アセットに加え、パートナーや顧客ネットワークを活用し、主に日本国内におけるWeb3の普及とイノベーションに寄与する新たなビジネス創出を目指す。ウェルネス領域や脱炭素・カーボンクレジット領域に於けるブロックチェーン技術の応用等様々な分野での共同事業の開発や合弁会社の設立など、幅広い領域での戦略的パートナーシップを加速し、社会課題の解決につなげる。
⑤KDDIがWeb3ソリューションの㈱HashPortと業務提携(2023年9月)
概要
KDDI㈱(東証PRM9433、総合通信)は、Web3ソリューション事業、Web3プラットフォーム事業、Web3プロダクト事業を手掛ける㈱HashPortと業務提携。
狙い
HashPortは、ソウルバウンドトークン(SBT)やWeb3ウォレットの基盤等を提供。KDDIは、HashPortと業務提携することで、KDDIが提供するNFTマーケットプレイス「αU market」と暗号資産ウォレット「αU wallet」がHashPortの子会社㈱HashPaletteが提供するブロックチェーンネットワーク「Palette Chain」に対応、これにより、「αU market」におけるPalette Chain上のNFTの提供と、「αU wallet」におけるPalette Chain上のNFTの管理や暗号資産「パレットトークン (PLT)(HashPaletteが2021年に日本初のIEO(当局の許可を受けた暗号資産での資金調達)を実施した、Palette Chainの基軸トークン)」の送金・入金が可能になる。
⑥アクセルがクリエイターサポートの㈱セルシスと資本業務提携(2024年2月)
概要
㈱アクセル(東証STD6730、半導体、AI、ブロックチェーン、セキュリティ、ミドルウェア)は、イラスト・マンガ・Webtoon・アニメーション制作アプリ「CLIP STUDIO PAINT」、商業アニメーション制作ソフト「RETAS STUDIO」を手掛ける㈱セルシス(東証PRM3663)と業務提携。
狙い
アクセルは、セルシスと資本業務提携することで、セルシスが提供する「CLIP STUDIO PAINT」及びセルシスの子会社、㈱&DC3が提供するコンテンツ流通基盤ソリューション「DC3」に対して、アクセルグループが保有するAI及びWeb3の先端技術を統合し、「CLIP STUDIO PAINT」及び「DC3」の機能やサービスの向上に取り組む。また、定期的に相互の技術交流を図り、クリエイターの創作活動を支援する次世代のAI技術の共同開発等を行う。
⑦マリオンがブロックチェーン技術の㈱BOOSTRYと業務提携(2024年8月)
概要
㈱マリオン(東証STD3494、不動産賃貸、不動産証券化)は、ブロックチェーン技術を用いた有価証券等の権利を交換する基盤の開発を手掛ける㈱BOOSTRYと業務提携。
狙い
マリオンは、BOOSTRYと業務提携することで、両社の得意分野を融合、不動産特定共同事業法に基づく匿名組合出資持分権利のトークン化を目指す。マリオンは、不動産特定共同事業法に準拠した新商品のスキーム組成、経済条件の確定および当該新商品の取引を実施。BOOSTRYは、当該新商品の発行のため必要なブロックチェーンおよびアプリケーション等含むITインフラストラクチャーを構築する。
⑧CAICA DIGITALがブロックチェーンネットワークサービス「THXNET.」のシンガポールTHXLAB Pte. Ltd.と業務提携(2024年10月)
概要
㈱CAICA DIGITAL(東証STD2315、金融機関向けシステムインテグレーション他)は、FinTech/Web3事業を展開する㈱BANQの子会社であるシンガポールTHXLAB Pte. Ltd.と業務提携。
狙い
THXLAB は、Web3マスアダプション時代にマッチした全く新しいブロックチェーンネットワークサービスであるWeb3aaS「THXNET.」を開発・運営している。THXNET.は自身のメインネットであるLayer0ブロックチェーンを基盤として、企業に対してセキュアでスケーラブルな専用のLayer1ブロックチェーンを提供するハイブリッドなブロックチェーンネットワークインフラストラクチャを構成し、その上にWeb3をビジネスに取り込むために欠かせない様々なOn-chain/Off-chain技術を全て組み込み、これらを包括的なAPIでワンストップソリューションとして提供している。CAICA DIGITALは、THXLABと提携することで、サービスの拡充を図るとともに、THXNET.を採用する新規事業のシステム開発をCAICA DIGITALのエンジニアがサポート、事業会社のWeb3事業推進を支援する。
⑨サイバーステップがアプリケーション開発のBacoor dApps㈱と業務提携(2025年2月)
概要
サイバーステップ㈱(東証STD3810、ネットワーク・エンターテイメントソフトウェア開発、分散ネットワークライブラリ、3Dグラフィックエンジン研究開発、オンラインゲームサービスのライセンス及び運営)は、ブロックチェーン及びスマートコントラクトを用いたアプリケーションの開発を手掛けるBacoor dApps㈱と業務提携。
狙い
サイバーステップは、Bacoor dAppsと業務提携することで、Bacoor dAppsのブロックチェーン技術を活用、新たなWeb3ゲーム「Eggle(仮)」を共同開発する。本ゲームでは、MetaMaskやウォレットコネクトだけでなく、最新のパスキー(生体認証)ウォレットにも対応し、従来のクリプトユーザーだけでなく一般ユーザーでも簡単に利用できる環境を提供する。Bacoor dAppsが開発する「ペイマスター」機能を導入し、ゲーム内ミームコインによるガス代の支払いを可能にすることで、Web3サービスの参入障壁を大幅に低減する。また、Bacoor dAppsが開発するERC-6551対応のNFT技術を導入し、NFTが単なるデジタル資産ではなく、独立したウォレットとして機能するシステムを構築。ゲーム内で獲得したアイテムやトークンをNFTに直接紐づけて管理することが可能となり、既存のコンテンツやシステムとの連携を強化。Web3ゲームにおけるミームコインの発行・運用を進め、新たな収益モデルを構築する。更に、既存のゲーム・デジタルコンテンツのWeb3化を推進し、NFTマーケットプレイスやDeFiサービスと連携。フィジカル商品とNFTを融合させたマーチャンダイジング(MD)商品の制作・展開を計画。ゲーム内トークンを分散型取引所(DEX)で活用し、ステーキングや資産運用などの金融活動と統合する。
⑩gumiがシステムインテグレーターのTIS㈱と共同サービス(2025年2月)
概要
㈱gumi(東証PRM3903、モバイルオンラインゲーム、ブロックチェーン)は、システムインテグレーションサービスを手掛けるTIS㈱(東証PRM3626)と共同でコンサルティングサービス提供。
狙い
gumiは、TISと連携することで、トークンを用いた施策の立案や運用、エコシステムやサービスの設計をはじめとしたWeb3事業の立ち上げから運用までをワンストップで支援するコンサルティングサービス「NUE3(ヌエスリー)」を共同提供。NUE3の提供にあたっては、gumiの子会社でブロックチェーン事業を展開する㈱gC Labsが市場分析やビジネス構築支援のアドバイザリー、トークンエコノミクスの設計支援、コミュニティマネジメントのアドバイザリーなどのコンサルティングを提供し、TISがWeb3事業に必要なシステム基盤開発、スマートコントラクトの開発、セキュリティ診断などの開発支援全般を担う。
⑪サイバーセキュリティクラウドが同意管理ツール開発の㈱DataSignの株式取得(子会社化)(2025年2月)
概要
㈱サイバーセキュリティクラウド(東証GRT4493、Webセキュリティサービス開発、サイバー攻撃の研究及びリサーチ、AI技術の研究開発、脆弱性診断および管理サービス提供)は、ブロックチェーン技術、匿名化技術及びデータ解析技術を利用した各種アプリケーションの開発、運用、販売を手掛ける㈱DataSignの株式を取得し子会社化。
狙い
サイバーセキュリティクラウドは、DataSignを買収することで、データ保護関連法規制への準拠を実現する統合セキュリティソリューション需要への対応を図る。具体的には、サイバーセキュリティクラウドが提供するWebサイトへのセキュリティに、訪問者のプライバシー秘匿技術の追加を図る。また、MSS事業(CloudFastener)において、セキュリティとプライバシーのベストプラクティスを提案・提供するだけでなく、安全で効率的なデータ利活用サービスの開発を推進する。
⑫ロジザードがブロックチェーン技術開発のぷらっとホーム㈱と業務提携(2025年2月)
概要
ロジザード㈱(東証GRT4391、クラウド在庫管理システム)は、マイクロサーバー・IoTゲートウェイなどの自社製品コンピュータの開発および販売、各種ネットワーク関連製品の販売、自社製品の保守・サポートサービス、IoTコンサルティング・ソリューションの提供を手掛けるぷらっとホーム㈱と業務提携。
狙い
ロジザードは、ぷらっとホームと業務提携することで、ぷらっとホームが開発する「ThingsToken™(現実世界の資産をブロックチェーン上に仮想化できるトークンシステム及びその技術。現実世界の資産(RWA:Real World Asset)のモノや設備・デバイス群を仮想化することで、Web2の世界をWeb3の世界へ結び付け、現実資産に関連したトークンエコノミクスを加速。)」と、「ロジザードZERO」のデータを融合、物流現場でのWeb3技術活用の可能性を引き出す研究に取り組む。
所感
ブロックチェーン・Web3業界は、ブロックチェーン技術を基盤とした価値の共創・保有・交換の機能を活かし、ゲーム・デジタルコンテンツの著作権管理、各種生産物や有形・無形資産の取引・マッチングに係る管理・自動化・効率化、メタバースとの融合を含めたデジタル経済圏の創出等、様々な分野でダイナミックな取り組みが推進されている。今後は、ベンチャー・スタートアップ企業の更なる躍進に加え、大手企業やレガシー産業が、自前のケイパビリティとブロックチェーン技術を融合させることで、新たなビジネスモデルを創出することが期待される。ブロックチェーン・Web3業界に参入する各社のM&A・アライアンス戦略から目が離せない。
以上
