概要
三菱ケミカルグループ㈱(東証PRM4188、2024年3月期資本合計2,275,495百万円、資産合計6,104,513百万円、売上収益4,387,218百万円、営業利益261,831百万円)のセグメント情報を元に、同社の事業ポートフォリオの最適化について検討する。
三菱ケミカルグループのセグメント別事業内容
- スペシャリティマテリアルズ:ポリマーズ&コンパウンズ、フィルムズ&モールディングマテリアルズ、アドバンストソリューションズ。
- 産業ガス:産業ガス(日本酸素ホールディングス㈱)。
- ヘルスケア:医薬品(田辺三菱製薬㈱)。
- MMA:MMAモノマー (Methyl Methacrylate Monomer)。
- ベーシックマテリアルズ:石化、炭素。
- その他:エンジニアリング、運送及び倉庫。
三菱ケミカルグループのセグメント別業績

- 日本酸素ホールディングスの産業ガス事業(売上高利益率13.1%、資産利益率6.6%)、田辺三菱製薬のヘルスケア事業(同12.9%、同6.0%)に比して、旧三菱化学、三菱レイヨン、三菱樹脂の流れを汲む三菱ケミカルのスペシャリティマテリアルズ事業(同0.4%、同0.3%)、MMA事業(同0.3%、同0.2%)、ベーシックマテリアルズ事業(同▲1.9%、同▲2.5%)の3事業(以下、「ケミカルズ事業」)の収益性が著しく低い。特に、ベーシックマテリアルズは赤字に転落している。
注目セグメント①産業ガス事業
- 産業ガス国内首位であり、米国やアジア等で事業拡大を進めている。価格マネジメント、DX活用、プラント操業最適化などを進め、収益力が向上。
- 今後は、安定的な利益成長を目指す他、三菱ケミカル(ケミカルズ事業)との更なる協業拡大が望まれる。
注目セグメント②ヘルスケア事業
- 国内医療用医薬品の重点品・新製品や海外医療用医薬品の販売数量伸長も、一部の国内医療用医薬品の終売及び新製品の上市に伴う販売費の増加等により減益。
- 今後は、収益性の更なる向上のため、他の製薬企業との経営統合を進めるなど、具体的なM&A施策が期待される。
注目セグメント③ケミカルズ事業
- バリア包材や塗料・インキ・接着剤用途等の需要減退、炭素繊維や高機能エンジニアリングプラスチックを始め食品包装用フィルムやポリエステルフィルム等の需要減退、半導体関連事業を中心に販売数量減少、MMAモノマー等の市況下落、石化需要減退、コークス価格下落、と総じて弱く、利益低迷。
- 5つの事業領域(グリーン・ケミカルの安定供給基盤、環境配慮型モビリティ、データ処理と通信の高度化、食の品質保持、新しい治療に求められる技術や機器)に経営資源を集中しつつ、他の事業領域は、事業売却、M&A、整理、撤退を含め、抜本的な改革が望まれる。
所感
同社は、ケミカルズ事業を成長ドライバーとし、グループ全体で最も稼ぐ事業ににV字回復させるべく、事業選別の3つの基準(Visionとの整合性、競争優位性、成長性)を設定、ポートフォリオの変革に本腰を入れて取り組む姿勢を示している。2024年4月には、組織改正により事業セグメントを一部変更、今後、M&A等含め事業の選択と集中を一気に加速させる見通し。総合化学メーカー最大手としての同社の今後の取り組みは、業界内外にも大きなインパクトを与えると共に、ROIC改善の手本ともなり得る。同社の復権を賭けた今後の取り組みが大いに注目される。
以上