建設コンサルタント会社3社の経営戦略と今後の展望

概要

 日本の主要な建設コンサルタント会社である、ID&Eホールディングス㈱(東京海上ホールディングス㈱(東証PRM8766)子会社、2024年6月期資本合計94,097百万円、資産合計206,386百万円、売上収益158,983百万円、営業利益14,124百万円)、㈱建設技術研究所(東証PRM9621、2024年12月期純資産61,674百万円、総資産87,694百万円、売上高97,678百万円、営業利益9,396百万円)、パシフィックコンサルタンツ㈱(非上場、2024年9月期資本合計47,047百万円、資産合計72,095百万円、売上収益69,254百万円、経常利益5,967百万円)の3社は、それぞれ独自の経営戦略を展開している。3社の建設コンサルタント事業に関する戦略をまとめ、共通点と相違点を整理する。

ID&Eホールディングスの経営戦略

 ID&Eホールディングスは、国内外でのポートフォリオマネジメントを推進し、民間事業や官民連携事業(PPP/PFI)、デジタルビジネス、マネジメント分野の拡大を戦略の柱としている。

  • 生産性向上:BIM/CIM技術の活用を拡大し、年800件の適用を目標に掲げるなど、先端デジタル技術による自動設計業務効率化を推進。
  • 収益改善:海外事業において、契約・支払通貨のミスマッチや回収リスクに対応するため、支払通貨の統一や、売掛金モニタリングの徹底、CCC短縮を徹底。
  • 地域戦略:欧州・日本では、再生エネ、リゾート、データセンター等の民間インバウンド投資に対応する体制を構築し、公共・民間の融合を図る。その他、防衛事業受注拡大、セグメント横断での事業提案と市場開拓を推進。インドネシアではNon-ODA・民間事業推進、インドでは現地法人が主体的に案件形成、インフラ×建築の都市開発・再開発に対応できる体制整備。
  • 事業提案強化:「都市」と「脱炭素」をキーワードに、分野横断的な事業創出提案に取り組む。
  • 営業体制:日本や欧州で磨かれた高い技術力・海外事務所や現地法人を通じた民間顧客との人脈・ネットワークを活用。公共と民間、双方の成長を目指すが民間比率を徐々に高める計画。
  • M&A戦略:2025年2月、損害保険の東京海上ホールディングスがID&Eホールディングスを子会社化。保険事業との連携による顧客ネットワークの拡張に取り組む。
建設技術研究所の経営戦略

 建設技術研究所は、社会・経済基盤整備を担うコア事業の収益強化と、成長分野への重点投資による、事業環境変化に対応可能なバランスの取れた事業ポートフォリオ構築を推進。

  • 事業構成の基本方針:主力の公共インフラ系調査・計画・施工管理を強化。エネルギー分野、情報提供サービス、CM/PM事業などの収益性が高い分野に注力。中長期では、環境DNA解析、CCS・地層処分、AI・IoT活用、PPP等に投資を実行。
  • 顧客別・分野別展開:国内建設コンサルティング事業は、国交省を堅持しつつ、都道府県、市区町村、旧公団財団、民間等の売上高拡大。4事業部門(流域・国土、交通・都市、環境・社会、建設マネジメント)×顧客(国、都道府県、市区町村、旧公団・財団、民間等)の組み合わせで拡大方策を展開。
  • M&A戦略:明確な方針を掲げ、相対的にシェアが低い技術分野(上下水道、都市、電気、機械、設備)や情報システム、CM・施工管理等の専門コンサルタント、地域密着型コンサルタント、海外の新拠点国のコンサルタントをターゲットに設定。
パシフィックコンサルタンツの経営戦略

 パシフィックコンサルタンツは、グループ全体最適化と国際競争力の強化を重視した戦略を推進している。

  • 成長ドライバー:M&Aによるグループの拡張と加速度的成長、グループ一丸推進でODA市場、非ODA市場における国際事業の強化。
  • 提案力の強化:複合分野の統合による技術力・提案力の向上と国家的プロジェクト(防衛、スマートシティ、脱炭素等)への対応を強化。インフラ民間事業者の開拓などで、顧客拡大によるビジネスチャンスの創出を図る。
  • アライアンス戦略:事業パートナーとのアライアンスを推進し、事業パートナーから選ばれる存在としての地位確立を目指す。
  • 人材戦略:技術継承とタレント育成の仕組みを整備。ナレッジマネジメント、プロジェクト・マネージャー育成、グローバル人材強化。
  • デジタル標準化:BIM/CIM、点群データ、自動設計、デジタルツイン実装・高付加価値化。
3社の共通点
  • 公共×民間の両立志向:3社はいずれも官公庁を主要顧客としながら、将来を見据えて民間案件の比率拡大を図っている。ID&Eホールディングスはインバウンド民間投資、建設技術研究所は民間コンサルや財団向け、パシフィックコンサルタンツは民間インフラ事業者との接点拡大に注力。
  • デジタル技術の標準装備化:BIM/CIM、点群データ、デジタルツイン、自動設計などを導入し、業務効率化・高付加価値化を進めている(特にID&Eホールディングス・パシフィックコンサルタンツが先行)。
  • グローバル市場への展開:ID&Eホールディングスは従来から強みを持つ国際事業の民間化を加速し、パシフィックコンサルタンツも非ODA案件の拡大を志向。建設技術研究所も海外新拠点のM&Aを視野に入れている。
  • M&Aの活用:建設技術研究所・パシフィックコンサルタンツはM&Aを明示的な成長戦略と位置づけており、ID&Eホールディングスも東京海上ホールディングス傘下となることによって広義の連携戦略を推進。
  • ESG/脱炭素・防災対応の強化:脱炭素、レジリエンス、防災・都市インフラ再整備といった政策課題への対応を重視。民間需要の取り込みと社会課題解決を両立しようとしている。
3社の相違点
  • ID&Eホールディングスは「民間化×グローバル化の先鋒」:グローバル民間市場での再エネ・都市開発・防衛事業に軸足を移している。保険との融合により“工学×リスクマネジメント”のハイブリッドソリューションを目指す点はユニークで、産業構造全体を変革するポテンシャルを有する。
  • 建設技術研究所は「地に足のついた多角化モデル」:公共事業を基盤としたうえで、周辺領域(エネルギー・情報・CM等)への投資を拡大し、中長期の成長性を確保。M&Aを含む拡張戦略も明快で、特に中小の建設コンサルタント会社との補完関係構築において堅実な展開が期待される。
  • パシフィックコンサルタンツは「グループ力×ビジョナリー経営」:M&Aによる成長加速、国際案件強化、国家的プロジェクトへの積極的関与など、“外に開かれたコンサルモデル”を志向。
所感

 建設コンサルタント業界は、公共事業の予算制約や、インフラ老朽化・気候変動対策への需要増、DX・BIM/CIM等の技術革新、人材不足と技術継承問題といった変化に直面している。このような中で、3社はそれぞれ異なる強みを軸に、「守りの公共」から「攻めの民間・グローバル」へ、「単一業務」から「複合提案・トータルソリューション」へ、「人の経験」から「技術とデータ活用」へ、と企業体質の変革を進めている。今後は、各社の戦略により持続的な収益構造を築けるか、また、中小の建設コンサルタント会社・異業種企業・海外パートナーとの連携をどう実現するかが成否のカギとなる。建設コンサルタント会社3社のM&A・アライアンスを含めた今後の取り組みが大いに注目される。

以上

株価算定・企業価値評価で全国対応の三澤公認会計士事務所

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