環境計測機器業界と戦略的M&A「先端技術との融合がカギ」

環境計測機器業界は堅調な市場拡大

 環境計測機器業界は、ラボ用分析機器や環境用分析機器、プロセス用・現場用分析機器、作業環境・保安用分析機器など、多岐にわたる製品群を有する成長産業である。特に、環境規制の強化や産業の高度化に伴い、精密な分析が求められる場面が増えている。一般社団法人日本分析機器工業会の公表する統計データによると、2023年の国内生産高は7,237億円、輸出高は5,086億円と過去最高水準を記録している。特に、ラボ用分析機器(3,855億円)や医用検査機器(2,733.2億円)の成長が目立ち、今後も堅調な市場拡大が予測される。また、各種調査機関等によると、世界の環境計測機器市場は、2023年に320億ドル規模であったが、2030年には470億ドル規模に達する見込みであり、今後も持続的な成長が期待される。

技術革新等が市場成長をけん引
  • 技術革新とインダストリー4.0の影響:環境計測機器の需要増加の背景には、IoT技術の進展とインダストリー4.0の台頭がある。特に、スマートセンサーの普及や、リアルタイムでのデータ収集・分析の需要が高まり、環境計測機器の市場拡大を促進している。また、5G技術の普及により、データセンターの冷却・電力管理のための環境計測が不可欠になっている。これにより、温度・湿度センサーやエネルギー消費監視装置などの需要が増している。
  • 環境規制と持続可能な開発目標(SDGs):各国の環境規制の強化や、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)への関心の高まりが、環境計測機器の導入を促進している。例えば、欧州のREACH規制やRoHS指令、中国の新汚染物質管理行動法案などが、環境監視技術の導入を義務化している。
  • 自動車産業と航空宇宙産業の変革:電動化が進む自動車産業や、航空宇宙分野における安全規制の強化により、高精度な環境計測機器の需要が急増している。Euro7などの新しい排ガス規制により、排ガス分析装置の需要も拡大している。
多彩な活用フィールドと成長性
  • ラボ用分析機器:生産高3855億円、輸出高2513億円(共に2023年実績)。全体市場の約53.3%(生産高)を占める最大セグメント。分光分析、クロマトグラフィー、質量分析などが中心。研究機関、大学、製薬・化学メーカーでの利用が主。半導体・製薬業界での需要増等、高成長が期待される。
  • 医用検査機器・システム:生産高2733億円、輸出高2259億円(同上)。臨床検査機器、血液・尿検査装置、DNA分析装置などが対象。医療DX(デジタルトランスフォーメーション)、バイオ技術発展等により市場拡大傾向、高成長が期待される。
  • バイオ関連分析機器:生産高72億円、輸出高71億円(同上)。DNAシーケンサー、PCR装置、バイオセンサーなど。ライフサイエンス・創薬分野での高い需要。創薬・遺伝子解析の拡大等に伴い、高成長が期待される。
  • 環境用分析機器:生産高278億円、輸出高121億円(同上)。大気・水質汚染監視装置、排ガス測定装置などが含まれる。環境規制強化に伴い、長期的な需要増加の可能性があり、安定成長が期待される。
  • 作業環境用・保安用分析機器:生産高191億円、輸出高94億円(同上)。労働環境安全対策向けの粉じん計、ガス検知器などを含む。労働環境管理や災害防止用途での需要が安定しており、安定成長が期待される。
  • プロセス用・現場用分析機器:生産高71億円、輸出高23億円(同上)。製造現場やプラント向けのリアルタイム測定機器。ガス分析計や溶液分析装置などが主要製品。
  • 自動化関連機器・情報処理システム:生産高21億円、輸出高0.64億円(同上)。分析装置の自動化、データ処理装置、分析用ロボットなど。AI・IoT技術と連携することでさらなる成長が見込まれる。
  • その他の分析機器:生産高13億円・輸出高2億円(同上)。需要は限定的だが特定ニッチ分野向けに供給。
世界的な環境規制が追い風
  • 北米市場:北米では、EPA(環境保護庁)による厳格な環境規制が市場を牽引している。また、先進技術の開発が盛んなため、スマート環境計測機器の導入が進んでいる。
  • 欧州市場:欧州は、環境規制が最も厳しい地域の一つであり、RoHSやREACH規制が環境計測機器市場を拡大させている。また、再生可能エネルギーへの移行が進み、それに伴う監視システムの需要も増加している。
  • アジア太平洋市場:アジアでは、中国、インド、日本が主要市場となっている。中国の新環境規制や、インドの水質・大気汚染問題への取り組みが、環境計測機器市場の成長を加速させている。
戦略的M&Aが勝敗を分ける

 環境計測機器業界は、今後も成長が期待される市場であり、M&Aを活用することで技術革新・グローバル展開・製品ラインナップ拡充・コスト削減といった多くのメリットが得られる。特に、データによる裏付けをもとに成長が見込まれる分野(医用検査機器、ラボ用分析機器)にフォーカスし、戦略的なM&Aを進めることが、企業の競争力を高める鍵となる。具体的には、環境計測機器業界において、M&Aは以下の点で有効な戦略と考えられる。

  • 技術革新の加速:近年、環境規制の強化や研究開発の進展により、高精度な分析機器の需要が拡大している。M&Aを通じて、最先端の技術を有する企業を取り込み、製品の競争力を強化することが可能である。特に、AIを活用した自動分析技術やIoT対応の遠隔測定システムを持つ企業との統合は、業界内での優位性を高めることが期待できる。
  • グローバル市場への拡大:2023年の輸出高は全生産高の約70%と高水準にあり、海外市場の重要性が増している。M&Aにより、海外企業とのネットワークを強化し、現地の販売網やサービス体制を拡充することで、グローバル展開を加速できる。
  • 製品ラインナップの拡充:環境計測機器は多岐にわたるが、単一企業ですべての分野をカバーするのは難しい。M&Aを活用し、環境用分析機器やプロセス用・現場用分析機器などの専門性の高い企業を統合することで、総合的なソリューション提供が可能となる。
  • コスト削減とシナジー創出:生産拠点や研究開発の統合により、コスト削減や効率化が図れる。特に、製造コストの高い分析機器の分野では、スケールメリットを活かしたコスト削減が競争力の向上につながる。
環境計測機器業界の有望企業

 環境計測機器業界における有望企業の特徴は以下の通り。

  • 先端技術を有するベンチャー企業(AI・IoT・自動化技術)。
  • 海外市場に強い販売ネットワークを持つ企業。
  • 特定分野に強みを持つニッチ企業(バイオ分析・水質汚染監視など)。
  • エコ・サステナビリティ分野に特化した企業(二酸化炭素計測・環境負荷低減技術)。

 環境計測機器業界は、非常に有望な市場であり、業界各社の今後の経営戦略が大いに注目される。特に、成長機会を最大限に活かす上で、M&Aの活用は有効な手段であり、上記有望企業とのアライアンスを推進する等、業界各社のM&A戦略が注目される。

以上

株価算定・企業価値評価で全国対応の三澤公認会計士事務所

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