特性や課題についての理解が必要不可欠
ロボットシステムインテグレータ(ロボットSIer)業界のM&A取引が活発化している。主要な買い手企業は、ロボットメーカー、産業機器メーカー、商社、同業のロボットSIer等。
- ロボットメーカー:ロボットSIerを買収・内製化することで、顧客のロボット導入に係る障壁を引き下げると共に、アフターサービスを強化。併せて、ロボットSIerからフィードバックされる顧客ニーズを元に、自社製品の更なる高付加価値化を目指す。
- 産業機器メーカー:ロボットSIerを買収・内製化することで、既存の顧客基盤を活かしたクロスセル戦略を展開。併せて、既存技術との融合による新製品開発に繋げる。
- 商社:ロボットSIerを買収・内製化することで、ロボットSI技術を取り込み、既存ソリューションの高度化、顧客提案力の強化を目指す。
- 同業のロボットSIer:ロボットSIerを買収することで、顧客基盤や得意分野の異なるロボットSI技術を融合、より高度な顧客提案力を有するSIerへの進化を目指す。
買い手企業は、各社各様の経営戦略の元、ロボットSIerのM&Aに取り組むことになる。ただし、M&Aをより実効性の高いものにするためには、売り手企業となるロボットSIerの特性や課題についての十分な理解が必要不可欠である。以下、ロボットSIerを買収する上で、買い手企業が考慮すべき4つのポイントを整理する。
①パッケージ化
ロボットSIerの多くは、オーダーメイド型のビジネスモデル(受注ごとに異なる設計を行う)に終始しており、同一モデルの横展開や量産化に対応しきれていない。そのため、提供サービスの工数単価が低くなりがちであり、利益率や投資回収に課題を抱えているケースがある。従って、買い手企業が採るM&A後の成長戦略としては、ロボットSIerが有する設計力・企画開発力等の強みを活かしながら、「ロボットのパッケージ化」を進めたい。過剰なコンサルティング領域を軽減し、パッケージ販売を基盤とした事業モデルへ移行することで、設計・企画開発プロセスの標準化やライブラリ化を推進し、効率的な業務運営を実現する。さらに、顧客ごとのカスタマイズ対応を整理し、標準化されたパッケージ開発を行うことで、より迅速な納品体制を構築する。
②独立性
ロボットSIerの多くは、独立性を維持し、マルチな商材を取り扱うことで顧客ニーズに応じた提案型ビジネスを継続したいという意向を持つ傾向にある。特に、特定のロボットメーカーとの代理店契約等を有する場合は、エンジニアの対応力・親和性等の観点からも、同契約の維持継続ニーズは強い。従って、買い手企業が採るM&A後の成長戦略としては、ロボットSIerの既存のビジネスモデルを最大限尊重し、顧客目線に立ったソリューション提供の継続を重視する必要がある。また、特定のロボットメーカーとの代理店契約等を有する場合は、既存ビジネスとのコンフリクトの有無を確認した上で、同代理店契約の維持継続を前提にビジネスモデルを構築する。また、代理店契約には一定の販売目標が課されているケースもあり、同販売目標達成のための具体的施策の検討も必要となる。
③労働環境
ロボットSIerは、オーダーメイド型のビジネスモデルが主流であることなどから、エンジニアの長時間労働が常態化しているケースがある。また、多くのロボットSIerは、慢性的な人材不足に直面しており、その影響でエンドユーザーからの依頼に十分に対応できず、ビジネス機会を逸しているという課題も浮き彫りになっている。従って、買い手企業が採るM&A後の成長戦略としては、先ずは、経営統合による急激な変化がエンジニアの定着率に影響を与えないよう配慮する必要がある。その上で、ロボットのパッケージ化等ビジネスモデルの強化による労働環境の改善を図るとともに、適正な人事評価と報酬体系を整備し、優秀な人材の流出を防ぐためにキャリアパスを明確化する必要がある。また、顧客となるターゲット市場を拡大させる、エンジニア育成プログラムを強化する等により、エンジニアのモチベーションを高める取り組みも重要である。
④社長
ロボットSIer業界は、比較的若い業界であり、社長が現場責任者として技術や事業の中核を担っていることが多い。従って、買い手企業が採るM&A後の成長戦略としては、社長の続投、あるいは技術アドバイザーとしての就任を念頭に、現経営陣の中長期でのコミットを要請することが望ましい。
技術・人材・顧客基盤の有効活用を目指して
ロボットSIerのM&Aは、自動化市場の拡大を見据え、技術・人材・顧客基盤の有効活用を目指す戦略的な取り組みである。買い手企業としては、売り手企業の意向を尊重しつつ、M&Aの目的を明確にし、統合後のビジョンを的確に描くことが成功の鍵となる。特に、「パッケージ化」、「独立性」、「労働環境」、「社長」の各ポイントについては、その後の事業運営に大きな影響を与えるものであるため、売り手企業と論点を共有し、十分に議論を尽くしたい。
以上
