概要
日本の主要な家賃債務保証企業である、全保連㈱(東証STD5845、2024年3月期純資産4,759百万円、総資産21,793百万円、売上高24,510百万円、営業利益2,224百万円)、ジェイリース㈱(東証PRM7187、2024年3月期純資産4,627百万円、総資産11,586百万円、売上高13,220百万円、営業利益2,606百万円)、㈱Casa(東証STD7196、2025年1月期純資産7,517百万円、総資産15,774百万円、売上高12,157百万円、営業利益1,303百万円)、㈱イントラスト(東証STD7191、2024年3月期純資産6,105百万円、総資産9,653百万円、売上高8,971百万円、営業利益2,073百万円)、あんしん保証㈱(東証STD7183、2024年3月期純資産2,324百万円、総資産11,112百万円、営業収益4,842百万円、営業利益439百万円)、ニッポンインシュア㈱(東証STD5843、2024年9月期純資産1,977百万円、総資産4,600百万円、売上高3,220百万円、営業利益418百万円)の6社は、それぞれ独自の経営戦略を展開している。6社の家賃債務保証事業等に関する戦略をまとめ、共通点と相違点を整理する。
全保連の経営戦略
業界最大手。全国5万3,000超の協定会社と提携し、居住用・事業用物件の家賃債務保証を展開。㈱三菱UFJフィナンシャル・グループ(東証PRM8306)と資本業務提携。住居用家賃債務保証は、各地域に強力な営業基盤を有する地銀グループとのアライア ンスを推進。また、近時増加する単身世帯の高齢者が安心して暮らせるよう、見守りサービスや孤独死保険等の付帯 サービスを開発・提供。事業用家賃債務保証は、住居用家賃債務保証よりも更に潜在的な需要が大きく、将来的にも有望な市場と判断。従来からの協定会社に加え、事業用物件を保有・運営するファンド・リート等へのアプローチを強化。更に、学費保証は、専修学校における授業料等の分割納付が可能となる新たな保証サービスとして、強化拡大。DX戦略も強化。AI・ロボット等を活用することで、営業・審査・債権回収・事務オペレーション等、社内の業務プロセス全体の効率化を推進。全保連が独自開発した電子申込システムである「Z-WEB2.0」の機能拡充 (電子契約、顧客レポート、契約書管理)等により業務のデジタル化・顧客接点の拡大を推し進め、将来的には「生活のプラットフォーマー」を目指す。
ジェイリースの経営戦略
保証領域を超えて「信用で人をつなぐ会社」を目指す。核となる家賃保証は、47都道府県への全国展開を目指し、拡大。住居用賃料保証は、エリア別の戦略を策定し、拡大余地が高い大都市圏でのシェアアップを狙う。事業用賃料保証は、大型オフィス・大型商業施設に積極展開。業界No.1の店舗網、事業用に特化した与信審査・営業・債権管理、大型・投資物件の開拓、人財育成・戦略的配置、により業界No.1を目指す。医療費保証は、市場のポテンシャルが大きく、今後も積極的に拡大。不動産仲介事業は、外国人向け不動産仲介、リノベーション再販を強化。養育費保証を新たな事業の柱に据える。既存事業との相乗効果によりIT・システム事業の成長加速、M&Aによりシナジーのある事業の獲得・新規事業開発、グローバル事業の調査研究により新規事業を育成。同業のK-net㈱を子会社化。
Casaの経営戦略
家賃保証サービスを中心にビジネスドメインを拡張し、グループシナジーの最大化を目指す。賃貸管理市場において、管理会社を通じた家賃保証の利用は90%に達しており、インフラとしての機能を担っている。一方で、自主管理家主の市場は属人的でアナログ的な対応になっていると判断。Casaの賃貸経営プラットフォーム「COMPASS」は、第一段階としてCasaグループの強みを活かし、自主管理家主向けに家賃保証サービスを提供。第二段階では、家主業務の効率化を目指し、DXを活用した新しいサービスを企画、開発。今後は、コールサービスを提供するプロフィットセンターと連携し、家主のニーズに応じた課題解決策を提供し、賃貸経営を支援する仕組みの構築を目指す。
イントラストの経営戦略
家賃債務保証に限らず、医療費用保証、介護費用保証、養育費保証といった他分野も強化。保証で培ったノウハウは、企業の課題を解決するソリューション・サービスとして提供、総合保証サービス会社としての躍進を目指す。家賃債務保証は、ニーズ対応力を強化し、利用率アップを図る。顧客の課題を解決するソリューションサービスや技術を蓄積し、信頼を獲得。医療費用保証は、保証未開拓のブルーオーシャン市場。保証制度が選択されはじめており、成長ステージへの昇華を目指す。介護費用保証は、契約による不履行リスクを回避するとともに、保証金のハードル下げ、契約機会を拡大。内部にある事業のタネや改善の余地を強化するとともに、M&A等外部との連携、技術・人材・事業機会の取り込みを進め、成長を加速させる。
あんしん保証の経営戦略
これまでは、家主が物件の管理を企業へ委託する管理物件を主たる市場としてきたが、家主自身で 物件を管理する一般物件市場の開拓を推進。より付加価値の高い保証スキームとして、クレジッ トカードポイントを付与できる信販会社との提携商品、家主への滞納が発生しない事前立替による保証、指定信用情報機関CICを用いた一定の承認率を保持しつつもデフォルトリスクを抑える与信精度などを競争上の強みとし、市場開拓を推進。また、新たなクレジットカード会社との提携商品の販売や指定信用情報機関JICCを用いた滞納報告型商品の販売強化に加え、家賃債務の保証事業を基幹ビジネスとしながら、これらのノウハウや優位性を活かし未だ機関保証が進出していない分野へ進出することで、事業の多様性と収益の分散化を目指す。
ニッポンインシュアの経営戦略
保証事業は、家賃債務保証サービスを主として、介護費債務保証サービス、入院費債務保証サービスの拡販に注力。家賃債務保証サービスは、積極的な新規取引先の開拓を継続することにより新規優良顧客の獲得に努める他、既存クライアントに対しても、商品の改訂や新たな商品の開発・販売を促進するな ど、引き続き顧客のニーズを的確に捉え収益に繋げる。介護費債務保証サービ ス及び入院費債務保証サービスは、引き続きパートナー企業との協業を通じて、成長事業としての展開を更に加速させ、家賃債務保証サービスに並ぶ主力商品となるよう、引き続き拡販を進める。また、日々進歩するIT技術を積極的に取 り入れ、顧客の利便性向上、審査業務によるリスク管理強化や滞納回収業務における回収率の向上に繋げ、市場で のシェア拡大と利益率の向上を目指す。
6社の共通点
- 家賃債務保証が主力事業:6社全てが家賃債務保証を主要な収益源としており、連帯保証人制度に代わる機関保証の普及を目指している。また、6社共に全国規模でのサービス提供を行っている。
6社の相違点
- 事業の多角化:全保連やジェイリース等は、事業用家賃債務保証の強化を進めている。一方、イントラストやニッポンインシュア等は、医療費用保証、介護費用保証、養育費保証など新分野への展開を進めている。また、Casaは、生活支援サービスを提供するなど、付加価値のあるサービス展開を図っている。
所感
家賃債務保証市場は、少子高齢化や単身世帯の増加、民法改正による連帯保証人制度の見直しなどを背景に、今後も成長が期待される。全保連、ジェイリース、Casa、イントラスト、あんしん保証、ニッポンインシュアの6社は、それぞれの強みを活かし、差別化を図りながら市場での地位を確立している。今後、各社がどのような差別化を図り、新たな価値を提供していくか、M&Aやアライアンス戦略を含め、各社の動向から目が離せない。
以上
