概要
㈱QPS研究所(東証GRT5595)は、2024年7月12日、事業計画及び成長可能性に関する事項を発表した。
事業内容
- SAR(Synthetic Aperture Radar、合成開口レーダー:衛星に搭載し宇宙空間を移動することで仮想的に大きな開口面として働くレーダーでセンサーからマイクロ波を発射し、地表で跳ね返ってきたマイクロ波をとらえる)システムを活用した小型衛星の企画、製造、運用。
- 自社の運用する小型SAR衛星からのSAR画像データの取得、分析、販売。
- 上記に関する技術コンサルティング。
強み
- 高い技術要件ゆえ、小型SAR衛星の主要プレイヤーはグローバルでも数社に限られる。同社は、高分解能・高画質を実現できるアンテナを開発することで、技術的優位性を実現している。
- 競争力の源泉は、世界トップレベルの小型SAR衛星を開発・運用できる技術力。天候に左右されず24時間地表を観測できるSAR衛星は、光学衛星に対する高いアドバンテージがあるにも関わらず、小型化が困難かつ製造・打上げコストが高くなりやすいという課題がある。同社は九州に根付く高い技術力によって、宇宙空間で展開可能な「展開式パラボラアンテナ」を開発したことでこの課題を解決し、世界でも数社しかいない小型高精細SAR衛星によるビジネスを展開している。
- 広面積かつ低質量のパラボラ式アンテナにより、同社は高分解能と軽量化、低コスト化を同時に実現している。同社の小型SAR衛星は日本で初めて10.5m以下の高分解能、100kg級の軽量化に成功している。
- 黎明期にある宇宙産業の中で、着実なビジネスを展開。同社が取り組む宇宙開発は、先の長いロマンではなく、実証された技術と実在する市場で展開される現実的なビジネス。九州大学における小型人工衛星の研究から始まった同社は、2019~21年の間に打上げた実証機であるSAR衛星2機と合わせ、現在までにSAR衛星7機の打上げを実施している。
中期経営計画
2025年5月期の数値目標は、売上高3,160百万円(2024年5月期実績1,653百万円)、営業利益10百万円(同341百万円)、とした。
リスク
- 同社が属するSAR衛星の世界市場は近年急速に成長を続けており、2024年の市場規模は49.7億ドル(USD@150円換算で7,455億円、年平均成長率13.9%)と推測され、2028年には82.9億ドル(USD@150円換算で1兆2,435億円)まで拡大する(出典:Research and Markets社「Synthetic Aperture Rader Global Market Report 2024」)と想定されている。しかしながら、光学衛星に対するSAR衛星の認知は徐々に高まってはいるものの依然として不十分であり、同社の取引は、防衛・防災等の特に公益性の高い分野に需要のある国内官公庁に現在は限定されている。民間部門への拡がりはまだ端緒についたばかりであり、国内市場の成長ペースが大きく伸長しない可能性があり、同社の事業及び業績に影響を与える可能性がある。また、市場の拡大が進んだ場合であっても、同社が同様のペースで順調に成長しない可能性がある。さらに、市場が成熟していないため、今後、大手企業や新興企業による新規参入等により市場シェアの構成が急激に変化した場合には、同社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性がある。
- 同社は、衛星リモートセンシング領域において事業展開している。当該分野のうち光学衛星については大型から小型の衛星まで多くの企業等が事業を展開しているが、同社が手掛けるSAR衛星については、大型衛星の運用実績は見られるものの、小型衛星については技術的なハードルが高いこともあり世界的に見ても参入を果たしている企業は限定的な状況にある。しかしながら、今後優れた競合企業の登場、競合企業による更なる技術革新や付加価値の高いビジネスモデル・ソリューションの出現等により、同社の競争力が低下する可能性があり競争優位性を失った場合には、同社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性がある。
- 同社は、運用する人工衛星につき電波法で定める無線局としての免許を受けている。電波法には、(ⅰ)日本の国籍を有しない人、(ⅱ)外国政府若しくはその代表者又は(ⅲ)外国の法人若しくは団体(以下「外国人等」という。)が議決権の三分の一以上を占めるものには無線局の免許を与えない旨の規定があり、同社の株主構成の変動により上記に該当することとなった場合には、新たに無線局の免許を受けることができないこととなることに加え、保有している無線局の免許が取り消される可能性がある。しかしながら、電波法には、一定の場合に外国人等の株主名簿への記載又は記録を拒む権利等、上記の事態を防止する手段が定められていない。同社では、当事業年度の期末日現在における外国人等の議決権比率が1.99%であることからも早急に三分の一以上となることは想定していないが、将来的に外国人等の議決権比率が三分の一以上となり、同社が電波法に基づく免許を受けることができないこととなった場合には、同社の事業及び業績に重大な影響を及ぼす可能性がある。
- 同社が保有し運用する衛星は最低5年を目途に使用されるが、運用期間中に製造上の瑕疵や欠陥部品、また宇宙放射線や太陽活動に伴う磁気嵐等による宇宙空間特有の環境における電子部品の性能劣化、加えて衛星管制上又は運用上の不具合その他の要因による衛星の機能不全又は機能低下を招く可能性がある。このような事態が生じた場合、地球観測衛星データ及び画像が提供できない、またできたとしても提供するデータ・画像精度が低下することによる収益の低下により、同社の事業及び業績に影響を与える可能性がある。また、上記要因により、衛星の収益が悪化し、衛星における営業活動から生ずる損益が継続してマイナスとなった場合には、減損損失を計上することとなり、同社の業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性がある。
- 同社は継続的な成長のために、衛星開発のための必要な研究開発活動を継続する必要があると考えており、これまで積極的に研究開発費を投下しており、今後も継続して研究開発活動を促進していく方針である。その結果として、前期まで継続的な営業損失及びマイナスの営業キャッシュ・フローとなっていたが、2024年5月期においては営業利益及びプラスの営業キャッシュ・フローを計上している。
- 2023年10月31日時点における弊社発行済株式のうち、計14,081,600株(以下「当該株式」という。)はベンチャーキャピタル、ベンチャーキャピタルが組成した投資事業有限責任組合及びベンチャーキャピタル又は投資事業有限責任組合が株式事務を委託した代行機関、金融商品取引業者(以下、「VC等」という。)が所有していた。2024年5月31日時点において、VC等が所有している当該株式の数は6,557,600株となっている。VC等は、今後所有する同社株式の一部、又は全部を売却することが想定される。このことから同社株式売却により、需給バランスの悪化が生じる可能性があり、同社株価形成に影響を与える可能性がある。
所感
同社は、2028/5期を目途に24機のSAR衛星コンステレーションを構築し、市場動向を見極めながら36機の打上げを計画していく方針を掲げている。QPS-SARの性能向上や、コスト削減にも取り組み、観測頻度や観測地域等について更なる需要が見込める場合は、36機を上回るSAR衛星コンステレーションを構築していく可能性もある。画像解析等のソリューション提供は、衛星開発と同様に高い技術力と多大なリソースを要求されるため、各業界・分野において専門性を有するソリューションプロバイダーを通じてソリューションの提供を行う予定だが、衛星運用を行う同社だからこそ得られる生データを活用したソリューションに価値が見出せる場合、コンステレーションの増強と同様に市場動向を見極めながら、生データ活用した特定業界・分野に特化した画像解析の内製化の可能性も検討する。同社の今後の取り組みが注目される。
- 挑戦度☆☆
- 戦略度☆☆
- 期待度☆☆
事業計画及び成長可能性に関する事項(2024/5期 決算説明資料)
以上