造園工事会社4社の経営戦略と今後の展望

概要

 日本の主要な造園工事会社である、住友林業㈱(東証PRM1911、2024年12月期純資産1,020,127百万円、総資産2,261,128百万円、売上高2,053,650百万円、営業利益194,588百万円)、㈱西武ホールディングス(東証PRM9024、2025年3月期純資産567,128百万円、総資産1,834,120百万円、営業収益901,131百万円、営業利益292,735百万円)、東急不動産ホールディングス㈱(東証PRM3289、2025年3月期純資産843,500百万円、総資産3,259,928百万円、営業収益1,150,301百万円、営業利益140,763百万円)、㈱岐阜造園(東証STD1438、2024年9月期純資産3,820百万円、総資産5,294百万円、売上高5,198百万円、営業利益447百万円)、の4社は、それぞれ独自の経営戦略を展開している。4社の造園工事業に関する戦略をまとめ、共通点と相違点を整理する。

住友林業の経営戦略

 山林を起点に、木材・建材の製造販売、住宅、リフォーム、不動産開発・管理までを垂直統合した事業を展開。造園・緑化は、「建築の価値を上げる環境要素」として、住宅・不動産領域と不可分なものとして位置づけている。㈱熊谷組(東証PRM1861)との協業では、2017年の業務・資本提携以降、複数分野で分科会を設けて協業を推進。一連の協業を通じ、両社は木造・木質化の中大規模建築ブランド「with TREE」を立ち上げ、コンセプトを「環境と健康をともにかなえる建築」と定義。建築設計と緑化計画を一体化した環境不動産の提案・受注拡大し、緑化を付帯工事から、木造化・木質化による環境価値(快適性、都市体験、ESG評価)を完成させる統合提案の一部と捉える。中大規模木造の提案を一般化し、建築設計と緑化計画の同時提案、即ち「環境不動産」の総合提案を競争軸とする。

西武ホールディングスの経営戦略

 鉄道を基盤に、不動産、ホテル・レジャーを束ねるグループであり、造園は都市体験・観光体験の質と沿線価値の双方を高める機能として組み込む。不動産回転型ビジネスを活用してアセットライト経営を促進し、得た資金を新規開発等へ再投資、「魅力ある街づくり」を推進。街づくりの具体例として、東京都が2020年2月に示した「芝公園を核としたまちづくり構想」に基づくエリア像(「江戸の杜」に集う江戸東京文化の体感と国際的な交流の促進)を示し、緑地整備を景観美化にとどまらず、文化・交流・回遊を設計する体験装置として提案。また、設計・施工・維持管理・運営までワンストップで提供しており、現在、芝公園を核としたまちづくり構想に基づき、ホテルの機能更新を図りつつ、歴史・文化 資源の活用、緑の充実を図るための緑地整備等を意識したまちづくりを進めている。

東急不動産ホールディングスの経営戦略

 資産活用型ビジネスの都市開発事業、戦略投資事業、人財活躍型ビジネスの管理運営事業、不動産流通事業、の4つの事業セグメントで構成され、環境緑化事業及び造園事業は管理運営事業で運営。管理運営ノウハウに加え、地域連携・共創、多彩な顧客・地域との接点が強み。国内造園事業としては初めて、グリーンインフラの技術・ノウハウを整理し、メニューとして一覧化(Greentect)したうえで、事業に活用・展開。従来、活用技術の整理やステークホルダーとの情報共有が十分でなく、環境貢献が実感されにくかった課題を踏まえ、技術項目を整理・可視化し情報共有を図っている。造園建設・緑地管理を含め年間約4,000件の受注実績を活用し、顧客網に順次「Greentect」を活用し、広域渋谷圏等の大規模案件にも活かす方針。造園を施工力勝負から環境価値を設計し、説明し、運用する力へ転換するものであり、ESG開示やTNFD等、自然資本の説明責任が強まる局面で競争優位となっている。

岐阜造園の経営戦略

 住宅の周辺環境(戸建住宅・集合住宅の景観構築、住宅分譲地での設計・施工)を対象とするガーデンエクステリア事業、パブリックスペース(庁舎等の施設、都市公園、街路、公立学校等の施工・整備、商業施設、工場、リゾートホテル、ゴルフ場、飲食店、ショッピングモール、温浴施設、住宅マンション、私立学校、病院、老人介護施設等)の景観を対象に造園工事及び緑地メンテナンス、公共公園の指定管理事業を手掛けるランドスケープ事業を展開。自社の強み(匠の技術品質×現場力納期×サービス業の精神人間力)を背景に、顧客満足度とリピート率の向上を通じて業務拡大を図る。また、造園工事業界唯一の上場企業というアドバンテージを活かし、積水ハウス㈱(東証PRM1928)との資本業務提携により、受注・連携を強化。大規模分譲地・都市再開発等の共同計画、提案力の相互向上、生物多様性保全等の計画実現を掲げ、単なる受発注関係を超え、設計領域への踏み込みを図る。更に、関東や関西地区の優良な協力業者との連携を強化していくことで、関東・関西地区での施工能力の強化を目指す。

4社の共通点
  • グリーンインフラ・ネイチャーポジティブの潮流により、造園が社会課題解決と直結する投資テーマになっており、民間案件においても緑地を標準仕様化するトレンドが生まれている。
  • 外部パートナーとの連携を強化。住友林業×熊谷組のように分科会を通じて協業領域を拡張する動きや、岐阜造園×積水ハウスのように資本を伴う提携により大型案件の取り込みを狙う動きが象徴的となっている。
  • 設計・施工に加え、維持管理・運営までを含むライフサイクル型への移行が進んでいる。官民連携制度が整備され、管理運営と収益化が制度面でも後押しされている。
4社の相違点
  • 住友林業は、木材・建築の上流(素材・設計思想)を握り、中大規模木造化を梃子に「建築×環境(緑)」の統合価値で差別化を図っている。
  • 西武ホールディングスは、交通・観光・不動産の体験価値を編集する街づくり事業者として、緑地を回遊・滞在・交流の装置に位置づけ、保有アセットと運営を連携させる。
  • 東急不動産ホールディングスは、管理運営という現場接点を持ち、造園・緑化を「環境価値の可視化サービス(Greentect)」として体系化、グループ内外へ横展開するサービス化志向が強い。
  • 岐阜造園は、専業としての品質と一気通貫体制を核に、資本提携・アライアンス・M&Aで施工能力と商圏を広げ、上場企業として産業再編の担い手になり得る。
所感

 造園工事業界は、グリーンインフラの実装フェーズに入ったことで、「何を植えるか」から、「何を実現し、どう説明し、どう運用するか」へ力点が移りつつある。その結果、勝ち残るプレイヤー像は、施工能力は無論のこと、環境価値の言語化・可視化(認証、指標、データ)、維持管理・運営を含むストック収益モデルを構築し、官民連携・エリアマネジメントに耐えるガバナンス力を備えた事業体となる。住友林業、西武ホールディングス、東急不動産ホールディングスは、自社の本業(建築・街づくり・管理運営)に造園を内製的に組み込み、案件創出力と資金調達力の両面で優位に立つ。また、岐阜造園は、アライアンスを武器に、地域分散した造園工事会社を束ねながら供給力と提案力を高め、業界再編の受け皿になる余地がある。造園工事業界における最大のリスクは、就業者減少と高齢化が一段と深刻化し得る点。造園工事業界各社は、単なる受注拡大ではなく、協力会社ネットワークの再設計、技能継承と生産性向上、データ・標準化による省力化を伴う事業モデルの更新が不可欠である。造園工事業界各社の今後のM&Aアライアンス施策が大いに注目される。

以上

M&A・アライアンス組成の三澤公認会計士事務

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