ロボットシステムインテグレーター業界の戦略的M&Aから読み解くセクタートレンド

①山善がロボットシステムインテグレーターの東邦工業㈱の株式取得(子会社化)(2017年4月)

概要

㈱山善(東証PRM8051、工作機械等専門商社)は、産業用の自動化・省力化設備の設計、製造を手掛ける東邦工業㈱を簡易株式交換により完全子会社化。

狙い

東邦工業は、ロボットシステムインテグレーションの領域において、構想設計から製作まで一貫して行う機械メーカーとして、自動車、住宅、食品、医療機器産業など、多様な産業の自動化、省力化に貢献する製品・サービスを提供している。山善は、東邦工業を買収することで、生産現場での自動化・省力化のニーズに応え、顧客の競争力向上に貢献するシステムインテグレーション機能のより一層の充実を図ると共に、ロボット人材の育成を目指す。

②日立産機システムがロボット生産ライン構築の㈱ケーイーシーの株式取得(子会社化)(2019年4月)

概要

㈱日立製作所(東証PRM6501、総合電機)の子会社で産業電機製造販売の㈱日立産機システムは、自動車および各種産業用の自動化設備の設計・製造を手掛ける㈱ケーイーシーの株式を取得し子会社化。

狙い

日立グループが有するプロダクト、OT、ITと、ケーイーシーが有する溶接工程におけるロボットSI技術や豊富なノウハウを融合させることで、ロボティクスソリューション事業 における競争力向上を目指す。日立グループが展開しているデジタルイノベーションを加速させるLumadaソリューションを活用し、生産年齢人口の減少に伴い今後高成長が見込まれるファクトリーオートメーション市場において、ロボット制御技術や製造現場のデータ分析、予兆検知技術なども組み合わせた付加価値の高いソリューション事業のさらなる拡大を推進する。

③日立製作所が米国ロボットシステムインテグレーターのJR Automation Technologies, LLCの株式取得(子会社化)(2019年12月)

概要

㈱日立製作所(東証PRM6501、総合電機)は、米国でロボットシステムインテグレーション事業を手掛けるJR Automation Technologies, LLCの株式を取得し子会社化。

狙い

高成長が見込まれる北米のロボッ トSI事業に参入する。JR Automation Technologiesの高度なロボットSI事業に関する技術やノウハウ、リソース、OT領域の顧客基盤の獲得を通じ、顧客の現場から得られる4Mデータをベースに、デジタル技術を活用したLumadaソリューションをグロ ーバルに展開することで、現場と経営のシームレスな連携や事業全体の価値向上に貢献する。

④KLASSが自動化システムを企画開発の㈱ROSECCの株式取得(子会社化)(2020年10月)

概要

KLASS㈱(東証STD6233、自動化・省力化産業機械メーカー、旧、極東産機㈱)は、ウォータージェット技術、ロボット技術を生かした各種の自動化システムの企画・開発・販売を手掛ける㈱ROSECCの株式を取得し子会社化。

狙い

コア技術の活用による各種産業機器の開発・製造や、各種ディスペンサー等の厨房の自動化機器の開発・製造を主要な柱のひとつと位置づけ注力。両社の経営姿勢や技術力の融合によるシナジーの実現を目指す。

⑤新東工業がロボット制御ソフトウェアの㈱アイシイの株式取得(子会社化)(2021年4月)

概要

新東工業㈱(東証PRM6339、鋳造機械製造)は、ロボットの制御ソフトウエアおよびアプリケーション開発を手掛ける㈱アイシイの株式を取得し子会社化。

狙い

アイシイは、大手ゼネコン向け外壁施工支援ロボットや溶接ロボット、産業用ロボットのリモート制御、AGVなどの制御システム開発に豊富な実績を持っている。また、オフラインティーチングソフトウエアの自社開発販売も行っている。新東工業は、アイシイを買収することで、ソフト開発力を強化、新東工業のZYXer(ロボットに力の感覚を持たせることができる6軸力覚センサ)の特性をアピールするとともに、提案力を強化して、センサ単体ではなく、アプリケーション、システムとして顧客に提供することを目指す。今後は、ZYXerを搭載した各種ロボットのアプリケーションを開発し市場に投入することで、ロボット関連事業の拡大を目指す。

⑥ネクスティエレクトロニクスがロボットシステムインテグレーターの日本サポートシステム㈱と資本業務提携(2021年7月)

概要

豊田通商㈱(東証PRM8015、総合商社)の子会社でエレクトロニクス商社の㈱ネクスティエレクトロニクスは、ロボットシステムインテグレーターで自動化・ロボットシステム開発から製作、保守・メンテナンス等を手掛ける日本サポートシステム㈱と資本業務提携。

狙い

日本サポートシステムは、デジタルシミュレーションから構想設計、装置開発、製造、保守・メンテナンスを一気通貫でサポート可能な、日本初のロボットSIer企業コンソーシアム「Team Cross FA」の幹事企業。ネクスティエレクトロニクスはロボットシステムインテグレーター事業に参入すると共に、ネクスティエレクトロニクスが保有するグローバルネットワークや、世界各国のロボティクス、デジタルファクトリー用技術商材と日本サポートシステムの幅広い知見を組合わせることで、顧客の様々なご要望に対する柔軟なシステムソリューション提供を目指す。

⑦ダイヘンが蘭国ロボットSIerのRolan Robotics B.V.の株式取得(子会社化)(2024年5月)

概要

㈱ダイヘン(東証PRM6622、変圧器等向け電源)は、オランダのロボットシステムインテグレータRolan Robotics B.V.の全株式を取得し完全子会社化。

狙い

ダイヘンは、一般産業向け中規模カスタムシステムを得意とするRolan Roboticsを買収することで、欧州におけるロボットシステム製品ラインアップを拡充するとともに、攻略地域拡大による欧州全土での販売力強化を図り、欧州市場のあらゆる自動化ニーズへ対応する。

⑧JRCがロボットシステムインテグレーターの中村自働機械㈱の株式取得(子会社化)(2024年6月)

概要

㈱JRC(東証GRT6224、コンベヤー部品)は、各種自働機械・包装機械・省力化機械・その他付帯装置の設計・製作を手掛ける中村自働機械㈱の株式を取得し子会社化。

狙い

中村自働機械は、各種自働機械・包装機械などの設計・製造を手掛けるロボットシステムインテグレーターとして、大手食品メーカーなどを中心にメンテナンスやリピート受注を多数獲得している。JRCは、中村自働機械を買収することで、両社の自動化ノウハウの共有及び双方の顧客基盤を活用したクロスセルを行うことで、事業成長を目指す。

⑨ダイヘンが米国ロボットSIerのForce Design, Inc.の株式取得(子会社化)(2024年10月)

概要

㈱ダイヘン(東証PRM6622、変圧器等向け電源)は、米国のロボットシステムインテグレータForce Design, Inc.の全株式を取得し完全子会社化。

狙い

ダイヘンは、溶接治具やハンドリング用途での高い技術力とシステム提案力を持つForce Designを買収することで、米国におけるロボットシステム提案力強化、カスタムシステム対応力を高めるとともに、中小顧客向け標準ロボットセルパッケージの充実を図る。

⑩日立製作所が独国ロボットSIerのMA micro automation GmbHの株式取得(子会社化)(2024年10月)

概要

㈱日立製作所(東証PRM6501、総合電機)は、高速リニア搬送システムや高精度組立、および高速画像検査技術を含むロボット活用ラインビルティング事業を手掛ける独国ロボットシステムインテグレータMA micro automation GmbHの株式を取得し子会社化。

狙い

MA micro automationは、超小型組立のロボティクスSIを提供。最新かつ独自の高速・高精度の自動化ノウハウと光学画像検査技術を組み合わせて、成長が著しいメディカル分野の、コンタクトレンズ、体外診断や糖尿病向けの診断用消耗品などの医療用部品の射出成型による製造、組立、試験に対応している。日立製作所は、JR Automation Technologies、MA micro automation、更には日本を中心に事業展開する㈱日立オートメーションを含め、ロボティクスSI事業のグローバルリーダーを目指す。

ロボットシステムインテグレーター業界のM&Aの特徴

垂直統合による競争力強化

ハードウェアメーカーや部品メーカーが、ロボットシステムインテグレーターを買収することで、自社製品を統合的に提供し、エンドユーザーへのソリューション強化を図る。また、AIやIoTを活用したロボット技術を持つロボットシステムインテグレーターを買収することで、ソフトウェア技術を取り込み、システムインテグレーションの高度化を図る。

製品ラインナップの拡大、特定産業向けの専門性強化

医療、物流、製造、建設など特定の業界向けに特化したロボットシステムインテグレーターを買収することで、自社製品のサービスラインナップを拡大・強化する。

グローバル展開の強化

海外のロボットシステムインテグレーターを買収することで、現地市場への参入や拡大を促進し、グローバル市場でのシェア拡大やプレゼンス強化を図る。

所感

ロボット産業は、企業の競争力強化ニーズや人材不足等を背景に、更なる拡大が見込まれている。同時に、ロボットシステムインテグレーター業界内のM&A・アライアンスや、ロボットシステムインテグレーターと機械メーカー、電機メーカー、商社、IT企業等との異業種間のM&A・アライアンスが増々活発化することも予想される。ロボット業界及び関連業界各社の主導権確保を賭けたM&A・アライアンス戦略から目が離せない。

以上

株価算定・企業価値評価で全国対応の三澤公認会計士事務所

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