環境計測機器メーカー3社の経営戦略と今後の展望

概要

 日本の主要な環境計測機器メーカーである、㈱島津製作所(東証PRM7701、2024年3月期純資産492,335百万円、総資産額673,962百万円、売上高511,895百万円、営業利益72,753百万円)、㈱堀場製作所(東証PRM6856、2023年12月期純資産額283,732百万円、総資産額449,030百万円、売上高290,558百万円、営業利益47,296百万円)、エスペック㈱(東証PRM6859、2024年3月期純資産額52,715百万円、総資産額78,235百万円、売上高62,126百万円、営業利益6,585百万円)の3社は、それぞれ独自の経営戦略を展開している。3社の環境計測機器事業に関する戦略をまとめ、共通点と相違点を整理する。

島津製作所の経営戦略

 島津製作所は、ヘルスケア、グリーン、マテリアル、インダストリーの4つの領域で、計測機器や医用機器、産業機器、航空機器の研究開発から製造、販売、保守まで幅広く事業を展開。特にグリーン領域では、「分析・計測と制御技術を通じて地球の健康に貢献する」というビジョンを掲げ、地球温暖化対策や大気・土壌・水の保全に取り組んでいる。具体的には、二酸化炭素吸収コンクリートやPFAS(有機フッ素化合物)、マイクロプラスチックに対応する計測ソリューションの開発を推進している。また、中期的には、分析・計測技術やX線技術を活用した高性能質量分析計など、先端計測機器の開発に注力。長期的には、脱炭素燃料の安定供給を支える次世代ガス分析技術や、量子センサによる高精度計測、さらには地殻変動を検知して災害を予防する高精度光格子時計の開発など、新規事業の創出を推進している。

堀場製作所の経営戦略

 堀場製作所は、自動車、環境・プロセス、医用、半導体、科学の5つの事業部門と、日本、アジア、欧州、米州の4地域によるマトリックス組織で事業を展開。「エネルギー・環境」「バイオ・ヘルケア」、「先端材料・半導体」の3つの注力分野を掲げ、それぞれで持続可能なソリューションの提供を目指している。特にエネルギー・環境分野では、「持続可能な地球環境を実現するために、お客様の課題を解決し、信頼される真のパートナーとなる」ことをビジョンとして掲げ、多様な製品・ソリューションの提供、堀場製作所グループの能力を融合した新たなビジネスの創出、さらにシステム提案やコンサルティングを通じたトータルソリューションの提供に取り組んでいる。近年は、環境規制対応でガス計測や水質計測などの需要が堅調であり、電子産業やガス製造プロセスにて多様な超微量ガスをモニタリングする分析計を発売するなど、産業分野でのプロセス計測需要に注力している。また、Process Instruments, Inc.(プロセスラマン分光装置の開発、生産、販売)や、Tethys Instruments SAS(水質・ガス分析計の開発・製造・販売・サービス)、TOCADERO Analytics(水質分析計の開発・製造・販売)の買収など、積極的なM&Aを通じて、既存のビジネス領域を新領域に適応するクロスセグメントを加速させている。

エスペックの経営戦略

 エスペックは、国内で初めて環境試験器を開発し、早期に国内外でブランドを確立。多品種少量生産を可能とする生産技術力と充実したグローバルネットワークで各国のニーズに適合した製品をグローバルに提供し、世界シェア30%超、国内シェア60%超のトップシェアを長年保持している。「世界の先端技術にとって不可欠な存在!」を掲げ、重点先端技術分野(IoT、次世代自動車)の製品ラインアップの拡充、カスタム製品のグローバルでの競争力強化と新市場開拓及びオープンイノベーションの推進による新環境因子技術の拡充を目指している。収益性と効率性の向上をはかり、持続的成長に向けた成長投資・M&Aを積極的に実施することを掲げている。

3社の共通点
  • 環境保全への貢献:3社とも、環境規制や持続可能性への高まる関心に応えるため、環境計測機器や関連技術の開発を強化している。
  • 先端技術の活用:AIやIoT、量子技術などの革新的技術を取り入れ、次世代の計測・分析機器の開発を進めている。
  • グローバル展開:世界各地の規制や市場ニーズに対応した製品・サービスを展開するため、グローバル市場への進出とシェア拡大を目指している。また、各社ともに海外でのM&Aや提携を積極的に行い、現地市場での競争力を高めている。
3社の相違点
  • 製品ポートフォリオ:堀場製作所はガス・水質分析を中心とした広範囲な製品群を持ち、島津製作所はX線技術や質量分析計を用いた高精度計測技術に強みを持つ。一方、エスペックは環境試験器の分野で高いシェアを誇り、IoTや次世代自動車分野におけるカスタム製品の展開に注力している。
  • 注力分野:島津製作所はグリーン領域に特化し、地球温暖化対策や次世代燃料に関連する計測技術を強化している。堀場製作所はエネルギー・環境とバイオ・ヘルスケア分野の統合的ソリューションに注力。エスペックは、特にIoTや次世代自動車分野の試験・検証のニーズに応える製品開発を進めている。
  • 成長戦略:堀場製作所は積極的なM&Aを通じた新事業の拡大に重点を置いているのに対し、島津製作所は自社の先端技術の応用と新規事業創出を強化している。エスペックはグローバル競争力の強化と収益性向上を重視している。
所感

 島津製作所、堀場製作所、エスペックの環境計測機器メーカー3社は、共通して環境保全や持続可能性の実現に寄与する計測技術の開発に取り組みつつ、それぞれの強みや戦略に基づき異なる方向性で事業展開を進めている。環境計測機器メーカー3社の技術革新や製品開発は、脱炭素社会の実現や産業の競争力強化に貢献するものであり、社会的意義が極めて大きいといえる。各社が持つ特徴的な技術や事業戦略が、さらなる環境課題の解決に向けた大きな推進力となることが期待される。今後のM&Aやアライアンスを含めた3社の取り組みが注目される。

以上

株価算定・企業価値評価で全国対応の三澤公認会計士事務所

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